“コスメティックもろざし”〈五十八〉 | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

“コスメティックもろざし”〈五十八〉

強く強くなる。
想いを胸に刻んだ少女は早起きして学校へ。
朝の光、レースのカーテンを通したように薄く白く。
知子は相撲場へ行き、ジャージに着がえる。準備体操、ストレッチ、前転後転くるくる回る。そして筋トレ。特に背筋を鍛える。今まで背筋を鍛える運動が苦手で、あまりやらなかった。その遅れを取り戻すべく集中して鍛える。器具に乗り、体を“Γ”の形から“―”へ。100キロ近い知子の体、わずか数回で強烈な疲労感が腰にかかる。
ぴこぴこと上背を上げ下げしては一休み。またぴこぴこと上げ下げを繰り返す。
何度か繰り返すなか、ついに上がらなくなった。
次に知子は懸垂に取りかかる。知子は懸垂が好きだった。相撲を始める前は懸垂などしたことがなかったし、初めて挑戦したときは、1回も出来なかった。しかし不思議なもので、相撲を始めて1週間後に1回、その3日後には10回出来るようになった。知子はそれが嬉しくてよく懸垂をするようになった。100キロ近い今も、やり続けたおかげで10回出来る。ただし10回出来るということに満足し、つらくてそれ以上やらなかった。
懸垂を始める。1、2、3……………………10、11、12、13、14、15。
最後は脚の反動を使ったが15回。新記録。手がプルプルふるえている。お腹が変な感じ。
30秒ほど間をおいて再度鉄棒を握る。10回が限界だった。
これを繰り返し、またしても1回も上がらなくなった。
限界までやる。そしていつか超える。それが知子の向上心だった。
懸垂が終わると知子はカバンからプロテインを取り出し、シェイカーに水を汲んできてシェイク。袋の裏に書いてある、召しあがり方、の倍の量を入れた。鼻をつまんで一気に飲み干す。
授業開始までまだ1時間半はある。知子は手術台のような脚を鍛えるマシンをベッド代わりに眠った。それは丈が短いことを除けばベッド以上に寝心地がいい。
学校中に予鈴が鳴り響く。
知子は飛び起き、急いで教室を目指す。背中と腕に筋肉痛。それを感じてにんまりほほえんだ。
2時間目の授業が終われば、プロテイン。お昼にたくさん食べたのちプロテイン。部活終わりにプロテイン。たらふく夕食を食べて眠る前にプロテイン。
プロテインを飲み始めてから3ヶ月、知子はすでに3年生、体重は120キロを超えた。
夏の大会に向けて練習は一層熱く激しいものになった。夏の大会が高校最後の大会なのだ。それは部活を引退するから、という理由からではなく、以降大会自体が無いからだ。
そんなある日、部活が始まる直前、相撲場の扉を叩く音がした。
がちゃり、
扉が開く。
「こんにちはぁ」
聞き覚えのある声、渡辺さんだ。