“コスメティックもろざし”〈五十六〉
知子は土俵から降りると、なんとかブタクマがいる“陣地”まで戻った。戻ったとたん、へなへなと座りこむ。
涙が溢れてやまない。
負けて悔しいとか、あのときこうしていればという後悔とか、そういう感情は湧かない。ただ涙が次々とでてくる。
心が泣いているのではない。体が、肉が泣いているのだ。流してきた汗、摂取してきたカロリー、それらを裏切る、敗北。体が泣いた。心みたいに薄情な奴には体が泣く理由など思いもつかない。
タオルを頭からかぶり、時折、鼻をすする音がきこえる。
ブタクマは知子に話しかけた。
「まぁ、初めてにしてはよくやったよ。初めてにしてはな。…だが俺はお前に初めて相撲をやらせたわけじゃない。最後のアレはなんだ?自分が強いとでも思ったか?決勝に残れただけで満足か?俺は不満だ」
知子は動かずに黙っている。
「…………もうすぐ表彰式が始まるぞ。顔を洗ってこい」
と、言い残して、ブタクマはどこかへ歩き去っていった。
知子はタオルでぐしゃぐしゃと顔をふいて、水道へいった。身を切るような冷たい水が、熱を持った目頭に心地よい。
「すいませーん、表彰式が始まります。こっちに来てもらえますか」
係員に呼ばれて土俵近くへ。
すでにT山さん、胡桃皮さんが待っていた。
「あっ、すいません」の意味をこめて軽く頭をさげる。
しばらくの間3人きりになった。無言が続くが不思議といやな雰囲気ではない。むしろ清々しささえ漂う。
表彰式が始まった。
3位のT山さんに続いて知子は表彰状を受け取り、“地元の地主”みたいな人から首にメダルをかけてもらう。
メダルをかけてもらい、首をあげると視界いっぱいに観客席が見えた。ほとんどの人達は後片付けで忙しげに動いていて、表彰式など見ちゃいない。
“わんぱく相撲の人達だな”
知子は思った。
目線を手前に移す。
関係者や一部の物好きがそれなりに手を叩いたりしている。
右から左へ目を動かす。
?!
ん、今真ん中あたりに?!
おもわず知子は2度見した。
目が合う。メイコ先生だ。
メイコ先生は最前列、といっても一列しかないのだが、で手をふった。なぜだか知子は恥ずかしくなった。いつから居たのだろう。
つつがなく表彰式は終わり、大会は終了した。
知子が荷物の整理をしているときにメイコ先生がやってきた。
「知子すごいじゃない。おめでとう」
ほほえみがまぶしい。
「あ、ありがとうございます。…でも、なんか嬉しくないんです。ブタクマにも怒られたし」
知子は少しうつむいた。
「あら、そうなの?じゃあこれはどう?」
メイコ先生がポケットからなにかを取りだした。
万札だ。しかも3枚。
「さっきね、ブタクマ先生からもらったのよ。さぁ、早く片づけて焼き肉でも食べに行きましょう」
「先生ぇ、それほんとにもらったんですか?ゆすったんじゃなくて?先生恐いからさ」
知子の顔に笑みが戻った。
「ふふふ、どちらでもよくてよ」
メイコ先生と2人きり、焼き肉屋へ。知子はおもいっきり食べて、おもいっきりブタクマのグチを言った。
帰り道、
「あっ、いつから居たのか聞くの忘れた」
知子はつぶやいてコンビニのおでんの汁をすすった。
続
涙が溢れてやまない。
負けて悔しいとか、あのときこうしていればという後悔とか、そういう感情は湧かない。ただ涙が次々とでてくる。
心が泣いているのではない。体が、肉が泣いているのだ。流してきた汗、摂取してきたカロリー、それらを裏切る、敗北。体が泣いた。心みたいに薄情な奴には体が泣く理由など思いもつかない。
タオルを頭からかぶり、時折、鼻をすする音がきこえる。
ブタクマは知子に話しかけた。
「まぁ、初めてにしてはよくやったよ。初めてにしてはな。…だが俺はお前に初めて相撲をやらせたわけじゃない。最後のアレはなんだ?自分が強いとでも思ったか?決勝に残れただけで満足か?俺は不満だ」
知子は動かずに黙っている。
「…………もうすぐ表彰式が始まるぞ。顔を洗ってこい」
と、言い残して、ブタクマはどこかへ歩き去っていった。
知子はタオルでぐしゃぐしゃと顔をふいて、水道へいった。身を切るような冷たい水が、熱を持った目頭に心地よい。
「すいませーん、表彰式が始まります。こっちに来てもらえますか」
係員に呼ばれて土俵近くへ。
すでにT山さん、胡桃皮さんが待っていた。
「あっ、すいません」の意味をこめて軽く頭をさげる。
しばらくの間3人きりになった。無言が続くが不思議といやな雰囲気ではない。むしろ清々しささえ漂う。
表彰式が始まった。
3位のT山さんに続いて知子は表彰状を受け取り、“地元の地主”みたいな人から首にメダルをかけてもらう。
メダルをかけてもらい、首をあげると視界いっぱいに観客席が見えた。ほとんどの人達は後片付けで忙しげに動いていて、表彰式など見ちゃいない。
“わんぱく相撲の人達だな”
知子は思った。
目線を手前に移す。
関係者や一部の物好きがそれなりに手を叩いたりしている。
右から左へ目を動かす。
?!
ん、今真ん中あたりに?!
おもわず知子は2度見した。
目が合う。メイコ先生だ。
メイコ先生は最前列、といっても一列しかないのだが、で手をふった。なぜだか知子は恥ずかしくなった。いつから居たのだろう。
つつがなく表彰式は終わり、大会は終了した。
知子が荷物の整理をしているときにメイコ先生がやってきた。
「知子すごいじゃない。おめでとう」
ほほえみがまぶしい。
「あ、ありがとうございます。…でも、なんか嬉しくないんです。ブタクマにも怒られたし」
知子は少しうつむいた。
「あら、そうなの?じゃあこれはどう?」
メイコ先生がポケットからなにかを取りだした。
万札だ。しかも3枚。
「さっきね、ブタクマ先生からもらったのよ。さぁ、早く片づけて焼き肉でも食べに行きましょう」
「先生ぇ、それほんとにもらったんですか?ゆすったんじゃなくて?先生恐いからさ」
知子の顔に笑みが戻った。
「ふふふ、どちらでもよくてよ」
メイコ先生と2人きり、焼き肉屋へ。知子はおもいっきり食べて、おもいっきりブタクマのグチを言った。
帰り道、
「あっ、いつから居たのか聞くの忘れた」
知子はつぶやいてコンビニのおでんの汁をすすった。
続