“コスメティックもろざし”〈54〉
「あの…熊若丸さんですよね?」
渡辺さんがブタクマに、ブタクマが先の逆転劇に興奮して少し天狗になっている知子をたしなめている時、話しかけてきた。
「あ…はい。…そうです」
相撲関係の場所に顔を出したのだ。ある程度覚悟していたがやはり熊若丸と呼ばれると背筋が凍る思いがする。
「わ、私、熊若丸さんのファンだったんですぅ」
渡辺さん、顔は笑顔だが目が真っ赤だ。
「お弟子さんですか?いやぁ、お強いですね。あそこまで追い込んで、あんな負け方初めてです」
「弟子、というのかどうか。学校の部活ですから」
当然知子はブタクマが熊若丸として破竹の勢いで大相撲の世界を駆けていたことを知っている。
しかし実際にブタクマが“熊若丸”と呼ばれているのは不思議な感じがする。知子にとってブタクマはやはりブタクマで、力士ではなく教師なのだ。
「学校にお勤めなんですか?あっ、すいません。大会の途中に、つい興奮してしまって」
渡辺さんはくるりと知子の方を向き、
「知子さん、あなた強くなるわ」
「あ、ありがとうございます」
「高校生かぁ。若いわぁ~。私もあなたのとこに練習に行こうかしら。高校生のエキスを吸って若返るわ、きっと」
「…あの、是非練習に来てください。私1人で練習してるんです」
知子は素直に思った、この人と練習すれば強くなれると。
「おい、練習に来てください、じゃないだろ。まずはお前が、練習に行ってもいいですか?だろ」
「うるせぇな、そんぐらいわかってるよ、話の流れってもんがあるだろ、女同士の話し合いに入ってくんじゃねぇよ」
知子のブタクマに対する態度は、尊敬し始めたとはいえ、以前の冷戦時代から変わっていない。流石に相撲に関する時はそれなりの態度をとっているが。
知子に言われて、特に女同士の話し合いという部分に、返す言葉を失ってしまった。
ブタクマは真面目なのだ。
「凄い迫力ね、強くなるってもんだわ。おっと、では失礼しました。」
渡辺さんはぺこりと頭を下げて離れていった。
渡辺さんが離れてすぐに準決勝が始まった。
知子の相手、T山さんは身長だけなら渡辺さんより大きい。会社勤めの26歳。わかるのはその程度だ。
取り組みが始まった。
待ったなし。
立会い、両者が動く。
「はっけよぉい」
知子のぶちかましで相手の体勢が崩れた。知子は一気呵成に攻める。流れるように手を巻き返し、止まることなく左右に投げを打ちT山さんに何もさせない。
あっという間に土俵際。
押し出し。
知子は決勝に進んだ。
続
渡辺さんがブタクマに、ブタクマが先の逆転劇に興奮して少し天狗になっている知子をたしなめている時、話しかけてきた。
「あ…はい。…そうです」
相撲関係の場所に顔を出したのだ。ある程度覚悟していたがやはり熊若丸と呼ばれると背筋が凍る思いがする。
「わ、私、熊若丸さんのファンだったんですぅ」
渡辺さん、顔は笑顔だが目が真っ赤だ。
「お弟子さんですか?いやぁ、お強いですね。あそこまで追い込んで、あんな負け方初めてです」
「弟子、というのかどうか。学校の部活ですから」
当然知子はブタクマが熊若丸として破竹の勢いで大相撲の世界を駆けていたことを知っている。
しかし実際にブタクマが“熊若丸”と呼ばれているのは不思議な感じがする。知子にとってブタクマはやはりブタクマで、力士ではなく教師なのだ。
「学校にお勤めなんですか?あっ、すいません。大会の途中に、つい興奮してしまって」
渡辺さんはくるりと知子の方を向き、
「知子さん、あなた強くなるわ」
「あ、ありがとうございます」
「高校生かぁ。若いわぁ~。私もあなたのとこに練習に行こうかしら。高校生のエキスを吸って若返るわ、きっと」
「…あの、是非練習に来てください。私1人で練習してるんです」
知子は素直に思った、この人と練習すれば強くなれると。
「おい、練習に来てください、じゃないだろ。まずはお前が、練習に行ってもいいですか?だろ」
「うるせぇな、そんぐらいわかってるよ、話の流れってもんがあるだろ、女同士の話し合いに入ってくんじゃねぇよ」
知子のブタクマに対する態度は、尊敬し始めたとはいえ、以前の冷戦時代から変わっていない。流石に相撲に関する時はそれなりの態度をとっているが。
知子に言われて、特に女同士の話し合いという部分に、返す言葉を失ってしまった。
ブタクマは真面目なのだ。
「凄い迫力ね、強くなるってもんだわ。おっと、では失礼しました。」
渡辺さんはぺこりと頭を下げて離れていった。
渡辺さんが離れてすぐに準決勝が始まった。
知子の相手、T山さんは身長だけなら渡辺さんより大きい。会社勤めの26歳。わかるのはその程度だ。
取り組みが始まった。
待ったなし。
立会い、両者が動く。
「はっけよぉい」
知子のぶちかましで相手の体勢が崩れた。知子は一気呵成に攻める。流れるように手を巻き返し、止まることなく左右に投げを打ちT山さんに何もさせない。
あっという間に土俵際。
押し出し。
知子は決勝に進んだ。
続