“コスメティックもろざし”〈五十一〉 | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

“コスメティックもろざし”〈五十一〉

ぐっと腰を沈め、重心を臍下丹田へ。前のめりに倒れるギリギリで踏ん張り、パワーを体の中で練り上げる。
そして解放。
重いサンドバックを持った知子がブタクマのぶちかましの衝撃により吹き飛んだ。
「コレを受けても体勢を崩すことがなければ、お前次第だが、関取にも勝てる」
ブタクマは倒れた知子を見下ろして言い放つ。
「…………無茶苦茶なこと言うな」
知子は口には出さなかったがブタクマの言葉に呆れた。そんな強さには永遠に手が届くはず無い、それほど強烈なブタクマのぶちかましだった。
「なおかつ、お前にはコレぐらい出来るようになってもらう。なに、コツさえ掴めばなんてことはない」
ブタクマはいとも簡単そうに言う。
そんなブタクマを知子は好きになっていた。もちろん恋愛感情ではない。父親らしい父親、とでも言うべきか。
好きになっていた、と言えば知子は相撲も好きになっていた。
相撲専門誌のバックナンバーを買い漁り、今では巻末のクイズコーナー「この背中はだーれだ?」も十中八九当てられるほどだ。
「じゃあ今から相撲をとるぞ」
はっけよい、のこった。
知子は全力でブタクマに向かう、ブタクマも“加減して”軽くぶつかりにかかる、ふたつの、性質の異なる肉塊がぶつかった瞬間、
ぽよん、
と、知子は弾き飛ばされた。
“相撲をとる”
一瞬だったが知子はブタクマの言っていることが少しだけ理解出来た。
ブタクマの腕が腹が、胸を借りていた時とはまったく違う。マネキンと人間ほど差があることに気づいた。
「次」
再度ブタクマにぶつかる。
今度はより加減したのだろう。吹っ飛ばされなかった、が、瞬時に右に投げられる。
「動きを止めるな。次」
再度組み付く。言われたとおり動く。右に左に前に後ろにまわしに。
「そうだ、だが」
ブタクマはさっきと同じ様に右に投げを打つ。知子はなんとか足一本で耐えた。が、ブタクマは即座に逆方向へと投げを打つ。耐えている知子の足に体を入れて。
知子は背中からマットに叩きつけられた。
「相撲に無駄な動きは無い。自分と相手の動き、効果的な動きとまったく通じてない動き、全てに意味がある。それを読め。全部自分のものにするんだ。そしてそれを踏まえて、螺旋のように技を繋げろ。あと、タイミングは自分で作り出せ。作り出せないなら引き込め、それが出来れば倒せないやつはいない。次」
いまさら言うことでもないが、相撲部にはブタクマと知子しかいない。従って知子は休む暇なく延々と動き続けなければならない。
それは知子にとってとても辛いものだったが、確実に知子をレベルアップさせていく。
年が明け、ブタクマは知子を女相撲大会に送り出した。