“コスメティックもろざし”〈四十七〉
「ここはな…、校長の趣味の部屋みたいなものだ。あの校長、学校へは仕事をする為じゃなく、体を鍛えに来ている…、というのは言い過ぎか…」
ブタクマはきりりと知子を見つめて語り出した。
「元はレスリング部の為のレスリング場にするはずだったようだ。だがいかんせん、部員が集まらなかったらしい。その後はさっき言った通り校長が自分の為の部屋にして、生徒とは縁のない場所になった。…だが、今日から俺がこの部屋を譲り受けた。俺が顧問になった部活の練習場所にちょうどいいと思って校長に掛け合ったんだ。渋々ながら…、やはり校長として断ることは出来ないだろ?…了解してくれたよ。それで…」
ブタクマは大きく呼吸をした。
「さっそく今日から部活を始めたいと思う。まぁ始めたばかりだから部員が1人しかいないのだがな。…………知子、お前がその部員だ」
「……………はぁ?勝手に決めてんじゃねえよ。…帰ります」
知子はくるりと回り、出口へ一歩踏み出した。
「ねぇ知子、あなたは気づいてると思うけど、今のあなた、とても残念だわ。以前の知子は未来に向けて着実に歩いていたわ。でも今は立ち止まって、目をつぶりながら体育座りしているみたいにじっとしている。別にあなたがどう生きようとそれはあなたが決めるべき選択だけど、私は教師として、人生を立ち止まっている生徒を放っぽりっぱなしってわけにはいかないのよ。立ち止まっていては何も始まらないわ。…今のは教師として。私個人としては前のあなたは好きだったわ。目が爛々と輝いていてね。けど今のあなたは救いようが無い目をしている。そんな奴大嫌いなのよ。関わりたくなんかないの。負に取り込まれたくないからね」
メイコ先生は知子の後頭部に向かって言った。
「それに…」
メイコ先生は知子の肩に手を置き、耳に口を寄せる。
「今帰ったらあの日のことバラしちゃおうかな」
知子は振り返った。泣きそうな、惨めな顔をしていた。
「じゃ、これに着替えなさい」
メイコ先生は古びたロッカーからTシャツとジャージの短パンを取り出す。
「ほら、ブタクマ、突っ立ってないで出ていって」
メイコ先生に言われブタクマは居る場所を失ったように部屋を出た。
「いい知子、私は置いといて、信じないかも知れないけど猪熊先生はあなたのこととても心配しているわ。…あなたの気持ちなんか誰にもわかりやしないし、あなたも、わかってたまるか、って思っているでしょうけど。人間なんて複雑なようで単純だわ。…親が死んでもお腹は減るし、ナイフで斬られた痛みも包丁で指をちょっぴり切った痛みも大してかわりはないものよ」
知子は話を聞きながら服を着替えている。
涙でTシャツの袖口がよく見えない。
いくらすすっても鼻から液体が溢れてくる。
「じゃあ私は行くわ、猪熊先生の言うこと聞くのよ。素直なあなたは好きよ。それを大事にして歩いて行ければ…」
ずびっずびっと知子は鼻をすすり、虚勢を張って、
「先生、部活ってなにやんの?」
と、聞いた。
「あら知らないの?猪熊先生は力士だったのよ」
続
ブタクマはきりりと知子を見つめて語り出した。
「元はレスリング部の為のレスリング場にするはずだったようだ。だがいかんせん、部員が集まらなかったらしい。その後はさっき言った通り校長が自分の為の部屋にして、生徒とは縁のない場所になった。…だが、今日から俺がこの部屋を譲り受けた。俺が顧問になった部活の練習場所にちょうどいいと思って校長に掛け合ったんだ。渋々ながら…、やはり校長として断ることは出来ないだろ?…了解してくれたよ。それで…」
ブタクマは大きく呼吸をした。
「さっそく今日から部活を始めたいと思う。まぁ始めたばかりだから部員が1人しかいないのだがな。…………知子、お前がその部員だ」
「……………はぁ?勝手に決めてんじゃねえよ。…帰ります」
知子はくるりと回り、出口へ一歩踏み出した。
「ねぇ知子、あなたは気づいてると思うけど、今のあなた、とても残念だわ。以前の知子は未来に向けて着実に歩いていたわ。でも今は立ち止まって、目をつぶりながら体育座りしているみたいにじっとしている。別にあなたがどう生きようとそれはあなたが決めるべき選択だけど、私は教師として、人生を立ち止まっている生徒を放っぽりっぱなしってわけにはいかないのよ。立ち止まっていては何も始まらないわ。…今のは教師として。私個人としては前のあなたは好きだったわ。目が爛々と輝いていてね。けど今のあなたは救いようが無い目をしている。そんな奴大嫌いなのよ。関わりたくなんかないの。負に取り込まれたくないからね」
メイコ先生は知子の後頭部に向かって言った。
「それに…」
メイコ先生は知子の肩に手を置き、耳に口を寄せる。
「今帰ったらあの日のことバラしちゃおうかな」
知子は振り返った。泣きそうな、惨めな顔をしていた。
「じゃ、これに着替えなさい」
メイコ先生は古びたロッカーからTシャツとジャージの短パンを取り出す。
「ほら、ブタクマ、突っ立ってないで出ていって」
メイコ先生に言われブタクマは居る場所を失ったように部屋を出た。
「いい知子、私は置いといて、信じないかも知れないけど猪熊先生はあなたのこととても心配しているわ。…あなたの気持ちなんか誰にもわかりやしないし、あなたも、わかってたまるか、って思っているでしょうけど。人間なんて複雑なようで単純だわ。…親が死んでもお腹は減るし、ナイフで斬られた痛みも包丁で指をちょっぴり切った痛みも大してかわりはないものよ」
知子は話を聞きながら服を着替えている。
涙でTシャツの袖口がよく見えない。
いくらすすっても鼻から液体が溢れてくる。
「じゃあ私は行くわ、猪熊先生の言うこと聞くのよ。素直なあなたは好きよ。それを大事にして歩いて行ければ…」
ずびっずびっと知子は鼻をすすり、虚勢を張って、
「先生、部活ってなにやんの?」
と、聞いた。
「あら知らないの?猪熊先生は力士だったのよ」
続