“コスメティックもろざし”〈四十六〉
学校が終わると、知子は一目散にコンビニに向かった。
生クリームのたっぷり詰まった菓子パン、20%増量のポテチ、握り拳みたいなシュークリーム、中身がフルーツのサンドイッチ、おもちゃみたいなプリン、板チョコを買い物カゴに敷き詰めて。
ケーキ屋にも寄る。
ガラスケースの中に陳列されているもの全部買った。
両の腕いっぱいの甘味。
知子はチャリンコを飛ばした。
誰もいない暗くて静かな部屋で知子はひたすら食べる。照明もテレビも役割を果たすことなく日が暮れた。
枕からは甘いミルクの匂い。知子は幸せそうな顔で眠った。
そんなふうに毎日を過ごした。
父が帰って来た日には冷蔵庫がケーキ類でいっぱいになった。
学校ではなんとか役割を演じることが出来ている、と、知子は思っている。ミチコもB子も以前と変わりなく接してくる。
しかし着実に体は太っていった。ブラが体に食い込む。
驚くべきことに、知子はたったの3週間で30キロ太ってみせた。産まれてから一度も体験したことのない類のカロリーが高性能なスポンジモップのように知子の体に染み込んだ結果だ。
あまりの変化に学校関係者は知子の噂で持ちきりになる。
「ドラッグをやっているんじゃないか」
「病気じゃないか」
「どっちみち体に悪い」
「自殺未遂をしたんじゃないか」
「これから自殺するんじゃないか」
「男関係じゃないの」
「家庭の問題でしょ」
「ただ単に食っているだけだ」
「どこまで太るのかしら。賭けない?」
「問題を起こしたい年頃なのよ」
「誰かにかまってもらいたいだけ」
皆が噂を楽しんでいるようだったが、知子にはどうでもよかった。
日々満腹感が遠ざかる。日増しに増える生クリームと体重。
それだけが生きていることを意味していた。
食べていない時、知子の目は死んでいた。
その目を放っておけない人物がいた。
もはや丸々とした体になった知子の体重が90キロに差し掛かろうとしているある日、この日も学校が終わると一目散に学校を出ようとした知子は校門で呼び止められた。
メイコ先生だ。
「知子、ちょっと来て」
招き猫みたいに手を振る。
知子の心はケーキタイムが遠ざかることにどんよりと曇ったが、メイコ先生に呼ばれたなら応じないわけにはいかない。
「なんですか」
知子は聞いた。
「まぁね、ちょっとついて来て」
メイコ先生はスタスタ歩いていく。
体育職員室の横にある階段を登って行く。
メイコ先生は2階と3階の踊場にある扉の前で止まった。
知子その扉の存在は知っていたが中がどうなってるのかは知らない。ぼんやりと用具室だと思っている。
メイコ先生はノックしてから扉を開け、中に入った。
知子は中を見た。
そこにはこの学校で見慣れぬ景色が広がっていた。こんな空間があったのか、と、思う。広い部屋。地面の3分の2を黄色と赤のビニール製と思われるもので覆われている。残りの3分の1には所狭しと、形豊かな鉄アレイ、ダンベル、バーベル、ベンチプレス台、背筋台、腹筋台、壁から突き出た鉄棒、ぶっとい縄跳び、他にも知子にはそれが何かさっぱりわからなかったが、カヌーのような形をしたもの、背の低い手術台のようなものに重りがついているものなどがある。
そしてその部屋の真ん中に腕を組んで仁王立ちをしている奴がいる。
目と目が合った。
ブタクマだ。
続
生クリームのたっぷり詰まった菓子パン、20%増量のポテチ、握り拳みたいなシュークリーム、中身がフルーツのサンドイッチ、おもちゃみたいなプリン、板チョコを買い物カゴに敷き詰めて。
ケーキ屋にも寄る。
ガラスケースの中に陳列されているもの全部買った。
両の腕いっぱいの甘味。
知子はチャリンコを飛ばした。
誰もいない暗くて静かな部屋で知子はひたすら食べる。照明もテレビも役割を果たすことなく日が暮れた。
枕からは甘いミルクの匂い。知子は幸せそうな顔で眠った。
そんなふうに毎日を過ごした。
父が帰って来た日には冷蔵庫がケーキ類でいっぱいになった。
学校ではなんとか役割を演じることが出来ている、と、知子は思っている。ミチコもB子も以前と変わりなく接してくる。
しかし着実に体は太っていった。ブラが体に食い込む。
驚くべきことに、知子はたったの3週間で30キロ太ってみせた。産まれてから一度も体験したことのない類のカロリーが高性能なスポンジモップのように知子の体に染み込んだ結果だ。
あまりの変化に学校関係者は知子の噂で持ちきりになる。
「ドラッグをやっているんじゃないか」
「病気じゃないか」
「どっちみち体に悪い」
「自殺未遂をしたんじゃないか」
「これから自殺するんじゃないか」
「男関係じゃないの」
「家庭の問題でしょ」
「ただ単に食っているだけだ」
「どこまで太るのかしら。賭けない?」
「問題を起こしたい年頃なのよ」
「誰かにかまってもらいたいだけ」
皆が噂を楽しんでいるようだったが、知子にはどうでもよかった。
日々満腹感が遠ざかる。日増しに増える生クリームと体重。
それだけが生きていることを意味していた。
食べていない時、知子の目は死んでいた。
その目を放っておけない人物がいた。
もはや丸々とした体になった知子の体重が90キロに差し掛かろうとしているある日、この日も学校が終わると一目散に学校を出ようとした知子は校門で呼び止められた。
メイコ先生だ。
「知子、ちょっと来て」
招き猫みたいに手を振る。
知子の心はケーキタイムが遠ざかることにどんよりと曇ったが、メイコ先生に呼ばれたなら応じないわけにはいかない。
「なんですか」
知子は聞いた。
「まぁね、ちょっとついて来て」
メイコ先生はスタスタ歩いていく。
体育職員室の横にある階段を登って行く。
メイコ先生は2階と3階の踊場にある扉の前で止まった。
知子その扉の存在は知っていたが中がどうなってるのかは知らない。ぼんやりと用具室だと思っている。
メイコ先生はノックしてから扉を開け、中に入った。
知子は中を見た。
そこにはこの学校で見慣れぬ景色が広がっていた。こんな空間があったのか、と、思う。広い部屋。地面の3分の2を黄色と赤のビニール製と思われるもので覆われている。残りの3分の1には所狭しと、形豊かな鉄アレイ、ダンベル、バーベル、ベンチプレス台、背筋台、腹筋台、壁から突き出た鉄棒、ぶっとい縄跳び、他にも知子にはそれが何かさっぱりわからなかったが、カヌーのような形をしたもの、背の低い手術台のようなものに重りがついているものなどがある。
そしてその部屋の真ん中に腕を組んで仁王立ちをしている奴がいる。
目と目が合った。
ブタクマだ。
続