“コスメティックもろざし”〈四十五〉 | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

“コスメティックもろざし”〈四十五〉

亡き母悦子から託された想いなのか、知子は太りやすかった。
意識があるうちは食った。風呂に浸かりながらも食った。
知子のアゴがふっくらした頃、陽はまた昇り、月曜日。
行きたい、とか、行かなきゃ、とか、行きたくない、とか考えることも出来ずに知子は制服姿になった。
スカートを履く感覚がいつもと違う。
体は膨らんだが、といっても流石に見た目はっきりとわかるほどではない、表情や雰囲気はげっそりとえぐれている。
学校に行く道すがらコンビニに寄り、エクレアを3個食べた。口元はチョコ色。天気は曇り。
甘いものを食べてる時だけ知子の目に生気が宿る。
学校に着き、トボトボと廊下を歩く。
普段ならば後輩や先輩から声をかけられる。しかしこの日は誰にも声をかけられない。誰も知子が通ったことに気がつかなかった。
いや、気がついた奴が1人だけいた。
「………………?」
ブタクマは知子が自分をまったく無視、普段は意識しあって無視している、してすれ違ったことに非日常性を感じた。
知子とすれ違ったあと甘いミルクのような匂い、それとどことなく“見たことがある”匂いがブタクマの鼻腔をかすめた。
教室に入った知子に、
「おっ、やっと来たよ。まったく待たせやがって」
と、ミチコとB子が近寄って来た。
ゆらゆらと揺れながら知子は自分の席に座った。
ミチコとB子は初め興奮していて知子に起こっている異常を目に留めることが出来なかったが、距離約1メートルに近づいた時にようやく気づいた。
それは告白の失敗を意味していることは想像出来たが、万が一、知子が自分達を騙そうと演技をしている可能性に賭けて、
「知子、…………どうだった?」
ミチコは聞いた。
「……えっ、…あぁ、ミチコ、B子おはよう」
「お、おはよう。ねぇ、それでタカオ君とはどうなったの?」
質問とは関係無い知子の返事に面食らったものの、というよりも面食らったからこそミチコは知子に追撃の一手を繰り出した。
「あぁ、ダメダメだったよ。なんか彼女がいるんだってさ」
知子はあっさり白状した。
知子の中で、ミチコとB子が自分をハメた、という疑念は消えていた。
実際2人は何も知らない。
「そ、そうか。…残念だったね」
「ははは、残念でした。」
「…ははは、まぁ頑張ったよ。…ていうかそれ非道くない?」
「それによく考えたら遠距離恋愛になるからね。どうせ長く続かなかったよ」
「B子、それは言い過ぎだろ」
「そう?」
「そうって、お前は悪気が無いから怖いよ、ねぇ知子」
「あはは、でも本当そうね、何も考えてなかったわ」
3人はいつも通りきゃぴきゃぴ笑いあう。
しかし知子はどこか気が抜けている。そして猫に追い詰められたネズミのような空元気だ。2人はそれに気づかぬフリをしていた。