“コスメティックもろざし”〈四十三〉
「よし、ばっちり」
知子はファミレスのテーブルに置いた鏡に写った自分を見て言った。
ここまで長かったなぁ、まつげをピンと震わせてしみじみ思った。
「げっ、時間がねぇ。あと5分だ」
えっ、ミチコの言葉に知子とB子はあ然とする。
「本当だ、いつの間にぃ~」
「お前が大根おろしハンバーグを頼むからだよ、なんでいま食うんだよ」
「え~、やっぱ肉は大事だよ」
言いながらミチコとB子はメイクの仕上げに取りかかっている。
「さて、行きますか」
「ちょっと待ってよ、私達は知子と違って仕上げるのに時間がかかるんだよ」
「そうだそうだ、この薄化粧お化けめ」
確かに知子は水を薄めたような美しい娘だが、決して薄化粧ではない。
現に時間が押している原因は、決して大根おろしハンバーグのせいではなく、3人が時が経つのを忘れてメイクに没頭していたからだ。
3人がファミレスを出たのはそれから5分後のことであった。
「ひぃ、汗が吹き出るぅ」
早足で約束の場所へと急ぐ。
約束の時間から10分遅れて着いた。
いた。そこには楽しげに話すD美と男の子達がちゃんといた。
「やぁ、遅れてごめんね」
「まったく、宮本武蔵じゃないんだから」
「いやごめんごめん、最初からちょっと遅れて行くって決めてたわけじゃなくてさ、こいつが突然メシを食いだしてさ」
「面目ない」
少女達と男の子達は街をぶらぶらと歩き、プリクラを撮り、またぶらぶらとマネキンを見つめたりした。
弾む会話はカラオケに吸い込まれて盛り上がりの絶頂を迎える。
カラオケ屋を出ると辺りは人工の光に満ちていた。
“東京にしかないファミレス”へと入った少女達と男の子達。
ガツガツとメシを食らいながら時間は過ぎていく。
あっという間に別れの時間が近づいた。
知子は次にタカオ君に会ったら言うと決めていたことを伝える為に、タカオ君と2人っきりのシチュエーションを創りだした。
3人の少女達は快く知子を送り出す。
駅前のロータリー、真ん中にはからくり時計、噴水、ベンチの横には知子とタカオ君。
「あ、あのさぁ」
「うん?」
「あの、私…あなたのことが好きみたい。つきあってください。…ってことなんだけど」
「えっ?」
「あの、つきあってもらえませんか?」
「あ、えっ?そんな…」
タカオ君は振り返りD美達がいるであろう場所を見た。
「嫌なら嫌でいいのよ」
知子はなかなか返事をしないタカオ君になかば諦めの言葉を投げかけた。
「………………なんでそんなこと言うの?」
タカオ君が知子の目を見て言った。
「えっ、なに?」
知子は心臓が口から飛び出しそう。
「まさか知子ちゃん、知らないわけないよね」
??????????
知子はもうわけがわからない。
「何が?」
「俺がD美とつきあってること」
知子の中で何かが音をたてて崩れていった。しかし頭は妙に冴えている。
「…………あははは、はは、……………だよね、冗談冗談。あははは」
「なんだよぉ。びっくりさせないでよ。ドキドキしちゃったじゃん。ほら、男は二足のわらじを履き分けてなんぼ、みたいな。どうせD美になんか言われたんだろ、浮気するかどうかとかさぁ」
「…ま、まあね」
既に知子の体から心は成層圏よりも高く放出されている。
「あ~、びっくりした。でもあれだよ、俺の選択は正解だろ?いや助かったよ、俺知子ちゃんみたいな地味な女タイプじゃないんだよね。ほら、知子ちゃんは特徴とか無いじゃん。タイプの女からだったらと思うとぞっとするよ」
屈託ない安心しきった笑顔でこのバカは言い放つ。知子は、確かに“地味”な格好や化粧法をしているが、それは指輪でいうならば、石の輝きを目立たせる為の無味なリングのようなもので、D美と知子を見比べた場合、100人いれば95人は知子の方が美しい、圧倒的に美しい、と答えるだろう。だがしかし、このバカは残りの5人に属していたようだ。
知子の脳裏にから笑う派手派手なD美の姿が浮かんだ。
「じゃ、みんな待ってるから行くわ。また遊ぼーね。じゃあまた」
タカオ君はさっそうと駅に向かって行った。
ハメられた?
ハメられたんだ。
知子は体の内側がとても痛くなった。
タイプじゃない。
特徴がない。
タカオ君が言った言葉が頭の中で鏡地獄のように乱反射してやまない。告白の結果は月曜日にミチコとB子に話すことになっている。
成功したなら家に泊めてヤッちまえ、とまで言われた。
2人はタカオ君とD美のことを知っていたのだろうか?
知子の思考は停止していて考える事が出来ない。
このままアスファルトに溶けていきたい。
そう思いながらも、それでもなんとか家に帰った。
手にはショートケーキの入った箱を握っていた。
続
知子はファミレスのテーブルに置いた鏡に写った自分を見て言った。
ここまで長かったなぁ、まつげをピンと震わせてしみじみ思った。
「げっ、時間がねぇ。あと5分だ」
えっ、ミチコの言葉に知子とB子はあ然とする。
「本当だ、いつの間にぃ~」
「お前が大根おろしハンバーグを頼むからだよ、なんでいま食うんだよ」
「え~、やっぱ肉は大事だよ」
言いながらミチコとB子はメイクの仕上げに取りかかっている。
「さて、行きますか」
「ちょっと待ってよ、私達は知子と違って仕上げるのに時間がかかるんだよ」
「そうだそうだ、この薄化粧お化けめ」
確かに知子は水を薄めたような美しい娘だが、決して薄化粧ではない。
現に時間が押している原因は、決して大根おろしハンバーグのせいではなく、3人が時が経つのを忘れてメイクに没頭していたからだ。
3人がファミレスを出たのはそれから5分後のことであった。
「ひぃ、汗が吹き出るぅ」
早足で約束の場所へと急ぐ。
約束の時間から10分遅れて着いた。
いた。そこには楽しげに話すD美と男の子達がちゃんといた。
「やぁ、遅れてごめんね」
「まったく、宮本武蔵じゃないんだから」
「いやごめんごめん、最初からちょっと遅れて行くって決めてたわけじゃなくてさ、こいつが突然メシを食いだしてさ」
「面目ない」
少女達と男の子達は街をぶらぶらと歩き、プリクラを撮り、またぶらぶらとマネキンを見つめたりした。
弾む会話はカラオケに吸い込まれて盛り上がりの絶頂を迎える。
カラオケ屋を出ると辺りは人工の光に満ちていた。
“東京にしかないファミレス”へと入った少女達と男の子達。
ガツガツとメシを食らいながら時間は過ぎていく。
あっという間に別れの時間が近づいた。
知子は次にタカオ君に会ったら言うと決めていたことを伝える為に、タカオ君と2人っきりのシチュエーションを創りだした。
3人の少女達は快く知子を送り出す。
駅前のロータリー、真ん中にはからくり時計、噴水、ベンチの横には知子とタカオ君。
「あ、あのさぁ」
「うん?」
「あの、私…あなたのことが好きみたい。つきあってください。…ってことなんだけど」
「えっ?」
「あの、つきあってもらえませんか?」
「あ、えっ?そんな…」
タカオ君は振り返りD美達がいるであろう場所を見た。
「嫌なら嫌でいいのよ」
知子はなかなか返事をしないタカオ君になかば諦めの言葉を投げかけた。
「………………なんでそんなこと言うの?」
タカオ君が知子の目を見て言った。
「えっ、なに?」
知子は心臓が口から飛び出しそう。
「まさか知子ちゃん、知らないわけないよね」
??????????
知子はもうわけがわからない。
「何が?」
「俺がD美とつきあってること」
知子の中で何かが音をたてて崩れていった。しかし頭は妙に冴えている。
「…………あははは、はは、……………だよね、冗談冗談。あははは」
「なんだよぉ。びっくりさせないでよ。ドキドキしちゃったじゃん。ほら、男は二足のわらじを履き分けてなんぼ、みたいな。どうせD美になんか言われたんだろ、浮気するかどうかとかさぁ」
「…ま、まあね」
既に知子の体から心は成層圏よりも高く放出されている。
「あ~、びっくりした。でもあれだよ、俺の選択は正解だろ?いや助かったよ、俺知子ちゃんみたいな地味な女タイプじゃないんだよね。ほら、知子ちゃんは特徴とか無いじゃん。タイプの女からだったらと思うとぞっとするよ」
屈託ない安心しきった笑顔でこのバカは言い放つ。知子は、確かに“地味”な格好や化粧法をしているが、それは指輪でいうならば、石の輝きを目立たせる為の無味なリングのようなもので、D美と知子を見比べた場合、100人いれば95人は知子の方が美しい、圧倒的に美しい、と答えるだろう。だがしかし、このバカは残りの5人に属していたようだ。
知子の脳裏にから笑う派手派手なD美の姿が浮かんだ。
「じゃ、みんな待ってるから行くわ。また遊ぼーね。じゃあまた」
タカオ君はさっそうと駅に向かって行った。
ハメられた?
ハメられたんだ。
知子は体の内側がとても痛くなった。
タイプじゃない。
特徴がない。
タカオ君が言った言葉が頭の中で鏡地獄のように乱反射してやまない。告白の結果は月曜日にミチコとB子に話すことになっている。
成功したなら家に泊めてヤッちまえ、とまで言われた。
2人はタカオ君とD美のことを知っていたのだろうか?
知子の思考は停止していて考える事が出来ない。
このままアスファルトに溶けていきたい。
そう思いながらも、それでもなんとか家に帰った。
手にはショートケーキの入った箱を握っていた。
続