“コスメティックもろざし”〈四十一〉 | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

“コスメティックもろざし”〈四十一〉

「あそこに、堤防の先に小さな灯台があるだろ?」
タカオ君は海岸線を指差した。ここから遠いのか近いのかよくわからないが、確かに海に突き出た堤防の突端に小さな灯台のような塔がある。
「今から話すのはあそこの話だ。あそこらへんの海の話」
タカオ君はふーっと息を吐いた。
「いや話じゃないな、だから大して面白くは話せないんだ」
「いいから、早く早く」
少女達は待ちきれずタカオ君を急かした。
「話は至ってシンプル、君達も何度か聞いたことがあるだろう。…………海の事故の話さ。海に引き込まれて溺れ死ぬ話………。」
ごくりと少女達ののどが鳴る。
「そ、それって、ほらよくある、海で写真を撮ったら海から無数の手が出てたってやつ?」
タカオ君の沈黙に耐えられず、ミチコが口を出した。
「そう、それだよ」
タカオ君はあっさり認めた。
拍子抜けしたのか、はたまた知っている話で安心したのか、少女達は、
「なんだぁ」
「あんまりタメるからさぁ~、ちょっちびびったよ」
などを言い合う。
「言ったろ、シンプルな話だって、聞いたことある話だってさ。ただし事実だ。…………この町では毎年大体20人ぐらいの人が海で死ぬ。ほとんどは観光客や釣り客だ。でも海水浴場でなんか滅多に死亡事故は起きない。…………そう、ほとんどあそこの海で死ぬんだ………」
少女達に再度緊張が走る。
「あそこは地元の人は近づかないからな、それが逆に魅力なんだろう、遊びにきた大学生が堤防から飛び込んだりするんだ。………もちろん立ち入り禁止だし、事故の注意書きはあるよ、それを守る奴もいるけど守らない奴もいるのさ」
タカオ君はやるせなく言った。本当にやるせないようだ。
「これは作り話じゃないからね、事実だけを話すよ。…あそこはとても潮の流れが複雑で速いんだ。そしてその流れの力で堤防の海から下がえぐれてる。…ちょうど人一人分、シングルベッドぐらいね」
少女達はぞわっと背中の産毛が逆立った。
「そう、海に飛び込んだら最後二度と浮かび上がってはこない。そのえぐれてる場所に引っかかっているのが次の日の捜索で見つかるんだ」
タカオ君はため息をついた。
「でもこれで終わりじゃないんだ。実は飛び込みをする観光客と同じくらい釣り客も死ぬんだ。釣り客ってのは同じ場所に集まるもんなんだ。でも、それでも、多分飛び込みをする大学生と同じ理由で釣りをする奴がいる。そういう誰もいない場所に入っていって釣りをする奴ってのは素人じゃない。百戦錬磨の釣り客なはずなんだ。もちろん飛び込みなんかしないし、落ちるなんてことはないはずさ。他の堤防では落っこちる奴なんて数年に一人ぐらいしかいない。落ちる要素は無い。……………でも落ちるんだ、毎年、何人も」
「ま、まさか…」
知子は確信している。
「……くどいようだけどこれは作り話じゃない、事実なんだ。だから無数の手によって海に引っ張り込まれたなんてことは言わないよ。ここまでは事実だ。そしてここからはこの異常な事実から生まれた噂なんだけど、飛び込みをした死体と釣り客の死体には共通の傷がある、体の至る所に手の形をした傷が。…まぁこれは水中で岩とか貝とかで引っ掻いた傷だろうけどね」
おおぅ、と、少女達はリアクションした。どうしていいかよくわからないのだ。
「それともうひとつ、そういう不可解な事が起こるのは圧倒的に満月の夜が多い。…そう特に今日みたいなやけに明るい満月の夜にね」
うわっ、タカオ君が話し終わると同時に残りの男の子達3人が後ろから少女達をおどかした。
きゃぁぁぁぁああぁぁ。
夜、静かな港に少女達の叫び声が響いた。