“コスメティックもろざし”〈四十〉
移動先はだだっ広い港だった。大きなフェリーやコンテナ船が見える。
この港はよく整備されていて、大きな公園のようになっていた。優しい光の街灯、トイレ、いくつものベンチ。
警察を避けてここに来たわけだが、むしろこっちの方が見回りに来そうだ。
疑問に思った3人の少女達は男の子達に問うた。
「ほら、あそこに釣り人がたくさんいるだろ、あそこは立ち入り禁止なんだ。警察はここを見回るとあいつらを全員帰さなきゃならなくなる。注意されても簡単に帰る人達じゃないからね、それが面倒で見回りに来ないのさ。もし見回りに来てもあいつらが時間を稼いでくれる」
「それと噂だけど、真面目に釣り客を追い払うと市から怒られるんだ、収入が減る、ってね」
「あ、あと県警の偉い人の実家がここらで釣具屋をやっているから取り締まらない、ってのもあったなぁ」
「要するに滅多なことがなけりゃ大丈夫ってことさ」
花火は夜を彩り、煙さえ香ばしいものにする。オレンジ色の街灯と月明かりが混じり、若い男女の顔を照らす。匂いすら光る。
花火も無くなり、彼女らはベンチに座り語り出した。
夏で夜で旅行、話は自然と怪談になる。
「…………それでね、何日ものあいだ連絡も無く会社を休むものだから数人の同僚が彼のアパートに行ったの。アパートの部屋をノックすると、思いに寄らず彼の返事がしたのよ、鍵は開いてる、入ってきてくれ、ってね、それで同僚達は部屋に入ったわけ、そしたら部屋の真ん中で彼がポツンと座ってるのよ、顔といわず体といわず見るからに痩せこけてる彼を見て同僚達は、どうしたんだ、って言ったのよ、彼は、動けないんだ、ってか細く言うの、わけがわからない同僚達は彼に近寄ってさらに聞いたの、どうしたんだ、ってね、彼は力なく目の前を指さして、見つめられていて動けないんだ、ってつぶやいたの、そして同僚達がその指の先を見ると…」
ごくりと喉を鳴らす音が静かな夜に響いた。
「そこはタンスと壁の小さな隙間だったの。でもよく見ると、その隙間からこっちを鬼のような顔で睨んでいる手に包丁を持った女がいたのよ!」
きゃー、うぉ、思い思いにリアクションをとる。
「数日後彼と同僚達は見つかったわ。全員首を切られていたそうよ、……………会社からね、嘘をついて会社を休むなって、…………お後がよろしいようで」
きゃっきゃっきゃっきゃっと笑う彼氏彼女ら。
「はぁ~あ、くだらねぇ、次はそっちの番、よろしく」
ミチコが男の子達に向かって言った。
「う~ん、なんかあるか?」
男の子達は話が尽きたようだった。
「……………アレしかない、な」
「いやアレはまずい。アレは作り話じゃなくて事実だ」
「ねぇなんなの、アレって。話してよ。そこまで言われちゃ天照大御神だって岩戸の内側で聞き耳たてるわ」
B子がひそひそ声で話していた男の子達に向かって言った。
ドキッとしたような顔で男の子達は互いの顔を見渡して、やがてこくりとうなずきあった。
「これから話すことは本当の話なんだ。嘘じゃない。こういう風にもったいぶっているのも君達をより怖がらせるテクニックじゃない。あまり話したくないんだ。でもここらに住んでる人なら大人も子供も知ってる、ただの事実だ」
タカオ君は怯えた声で話し始めた。
続
この港はよく整備されていて、大きな公園のようになっていた。優しい光の街灯、トイレ、いくつものベンチ。
警察を避けてここに来たわけだが、むしろこっちの方が見回りに来そうだ。
疑問に思った3人の少女達は男の子達に問うた。
「ほら、あそこに釣り人がたくさんいるだろ、あそこは立ち入り禁止なんだ。警察はここを見回るとあいつらを全員帰さなきゃならなくなる。注意されても簡単に帰る人達じゃないからね、それが面倒で見回りに来ないのさ。もし見回りに来てもあいつらが時間を稼いでくれる」
「それと噂だけど、真面目に釣り客を追い払うと市から怒られるんだ、収入が減る、ってね」
「あ、あと県警の偉い人の実家がここらで釣具屋をやっているから取り締まらない、ってのもあったなぁ」
「要するに滅多なことがなけりゃ大丈夫ってことさ」
花火は夜を彩り、煙さえ香ばしいものにする。オレンジ色の街灯と月明かりが混じり、若い男女の顔を照らす。匂いすら光る。
花火も無くなり、彼女らはベンチに座り語り出した。
夏で夜で旅行、話は自然と怪談になる。
「…………それでね、何日ものあいだ連絡も無く会社を休むものだから数人の同僚が彼のアパートに行ったの。アパートの部屋をノックすると、思いに寄らず彼の返事がしたのよ、鍵は開いてる、入ってきてくれ、ってね、それで同僚達は部屋に入ったわけ、そしたら部屋の真ん中で彼がポツンと座ってるのよ、顔といわず体といわず見るからに痩せこけてる彼を見て同僚達は、どうしたんだ、って言ったのよ、彼は、動けないんだ、ってか細く言うの、わけがわからない同僚達は彼に近寄ってさらに聞いたの、どうしたんだ、ってね、彼は力なく目の前を指さして、見つめられていて動けないんだ、ってつぶやいたの、そして同僚達がその指の先を見ると…」
ごくりと喉を鳴らす音が静かな夜に響いた。
「そこはタンスと壁の小さな隙間だったの。でもよく見ると、その隙間からこっちを鬼のような顔で睨んでいる手に包丁を持った女がいたのよ!」
きゃー、うぉ、思い思いにリアクションをとる。
「数日後彼と同僚達は見つかったわ。全員首を切られていたそうよ、……………会社からね、嘘をついて会社を休むなって、…………お後がよろしいようで」
きゃっきゃっきゃっきゃっと笑う彼氏彼女ら。
「はぁ~あ、くだらねぇ、次はそっちの番、よろしく」
ミチコが男の子達に向かって言った。
「う~ん、なんかあるか?」
男の子達は話が尽きたようだった。
「……………アレしかない、な」
「いやアレはまずい。アレは作り話じゃなくて事実だ」
「ねぇなんなの、アレって。話してよ。そこまで言われちゃ天照大御神だって岩戸の内側で聞き耳たてるわ」
B子がひそひそ声で話していた男の子達に向かって言った。
ドキッとしたような顔で男の子達は互いの顔を見渡して、やがてこくりとうなずきあった。
「これから話すことは本当の話なんだ。嘘じゃない。こういう風にもったいぶっているのも君達をより怖がらせるテクニックじゃない。あまり話したくないんだ。でもここらに住んでる人なら大人も子供も知ってる、ただの事実だ」
タカオ君は怯えた声で話し始めた。
続