“コスメティックもろざし”続・再会は始まりの鐘〈三十七〉 | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

“コスメティックもろざし”続・再会は始まりの鐘〈三十七〉

「よっ、お疲れ」
知子が教室に戻ると、約束をしていた二人の友達が声をかけた。
「家でオヤジが待っている」
そう嘘をついて友達から身を隠したわけだが、これはいつものことである。
友達に嘘をつくことではなく、家でオヤジが待っていることがだ。
知子が父子家庭であること、そして知子の父親が仕事に忙しく土曜の昼しか家にいないことをクラスメートは全員知っている。
知子が話したわけではないのだが…。
オヤジが待っている、と言って知子が土曜の放課後足早に、チャリンコのペダルに全体重をかけて、家へと帰るのは日常のことだ。
そしてそのあと友達と合流することも。
「親孝行する歳でもないのに、真面目な知子が帰って来ました」
ぺこりとおじぎをして知子は友達に応えた。
2人の友達は笑いながら机の上のお菓子、もちろん禁制品、を片付ける。
「じゃあ、さっそくで悪いけど行こっか」
二人の内、背の高い方のミチコが言った。
「まったく、階段を駆け上った私の努力が無駄に思えるわ」
「あ~嘘ついたぁ。入ってきた時息乱れてなかったじゃん」
背の低い方、B子が指摘する。
「うるさい。お前は探偵かよ」
「ひどーい。泣けてくるわ」
知子の言葉に反応してB子は両手で目を塞ぎ泣く…マネをした。
「さっ行こう」
ミチコが教室の外から手を招いた。
知子はそれに応じてスタスタと教室を出ていく。B子はまだ、教室で、泣きマネをしている。
知子とミチコが二階にある教室から校庭に出たあたりで、
「無視かぁい」
というB子の大声が教室から聞こえた。
「あいつもようやるわ」
知子とミチコは笑いながら、それでも足を止めず、むしろ速度を上げて、駅へと向かった。
駅は学校から徒歩2分の場所にある。
切符を買い終えた二人の後ろから、
「まってよぉ~」
と、B子の声がした。
B子の姿に知子とミチコはギョッとした。
B子は社会の隅っこでは高値で取り引きされ、それを着たいが為に受験者と変態が殺到するほど人気のあるこの学校の制服ではなく、その制服のデザインの良さとは正反対に位置するダサさ丸出しの学校指定ジャージ、通称タゴサクを身に着けていた。
そのタゴサクスタイルのB子が太ももの裏にかかとをぶつけるようにパタパタと走りながら近づいてきたのだ。
「ど、どうして?」
知子とミチコは同時に問うた。
「さぁ?意味なんかないわ。わからなくってもいいしね、私もわからないから」
B子は答えた。
「ただ、急いで着替えるている時、ロッカーの前で着替えたんだけど、急いでやってるからまず制服を全部脱いで下着姿になったのね、その時ブタクマに見られたのよぉ」
「げぇーサイアク」
また二人同時だ。
「でも人間って不思議なものね。ブタクマと目があってるんだけど急いでるって意識があるから体は勝手に動いてタゴサクを着ていくのよ。気がついたら着替え終わってたわ。そのまま駆け出したからブタクマは相当気まずいはずよ。セクハラで訴えられるんじゃないかってね」
B子は笑った。表現するなら、かっかっかっかっ、と高く渇いた声だ。
「そ、そう。それより制服は持ってきたんでしょうね?」
ミチコが尋ねた。
「さすがにね、だって今から合コンじゃない。私は性欲には正直なんだから」
B子はまた笑った。
「合コン、なのかな。これは」
知子がつぶやいた。
「合コンでしょ、こんなに頑張ってるんだから」
「意味わかんねぇよ」
またまた二人同時。
「だってさぁ。今日の朝からドキドキしてさぁ。普段絶対しないのに忘れ物のないようカバンを開けたり閉めたりしてさぁ。これからだってばっちりメイクするしさぁ。こんなに頑張ってるのにこれが合コンじゃないだなんて私認めないよ」
B子はいやに素直なんだよなぁ、知子は思い、苦笑した。
「合コンねぇ。お互い全員知ってるのにそう言えるのかな」
ミチコがB子に言った。
「だからぁ努力は必ず昇華されなきゃダメなの。そしてどんどん昇っていって……………」
ミチコとB子の冗談半分恥ずかしさ半分の言い合いが続くなか、知子はこれから、B子曰く合コン、で久しぶりに逢うタカオ君のことを考えていた。
「あっ電車来てるじゃん」
どっちが言ったのか知子はわからなかったが二人がホームに向かって駆け出すのを見て知子もすぐに駆け出した。