“コスメティックもろざし”(34) | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

“コスメティックもろざし”(34)

「これは没収する、学校に持ってくる必要はないからな」
ブタクマの宣告に知子は泣きそうになった。
「ちょっと待ってよ、こんなのみんな持ってきてんじゃん。ここは女子校だよ?あんたわかってんの?こんなの問題にすんのあんただけだよ、他の人は見逃してるじゃん」
「ふん、運が悪かったな」
ブタクマは知子の訴えを鼻息で吹き飛ばす。
知子、いや全生徒はブタクマが異常に厳しく“密輸”を取り締まり、一度ブタクマに没収されたものはもう二度と手元に戻ってこないことを知っている。
100円のマニキュアやブランドの香水、おもちゃみたいなピアス、アイドルのCD、マンガ、ゲームソフト、官能小説、それらがごっちゃになってブタクマの机の三段目の引き出しに詰め込まれている。卒業したら返されるようだが、実際に返された者の話は聞いたことがない。ブタクマがこの学校に来てまだ卒業生を担当していないこともあるが。
ブタクマは一段目の引き出しから鍵を取り出して三段目の封を解く。
手には知子から没収した化粧品でパンパンに膨らんだポーチ。
それを投げ入れ、引き出しを閉じる。
「あぁーふざけんな、返せ」
知子の声は無視され、カチャリと鍵は閉められた。
「今回はこれだけだ。早く教室に行け。ホームルームが始まるぞ。」
そう言ってブタクマは体育職員室の扉を指差す。
「くっ」
知子は奥歯を噛み締めて体育職員室を出た。
「あぁどうしよう…アレがないと……」
知子は絶望しながら廊下を歩く。そして、
「やるしかない」
という言葉が浮かんだ。
盗んでやる、いや取り返すんだ。
知子は静かに決意した。
当たり前のことだが、今まで誰もブタクマの引き出しの中から密輸品を取り返そうとした者はいない。
計画だけなら、ブタクマの犠牲者ならみんな考えた。体育職員室が空くタイミングも、鍵の位置も生徒であるならば知っている。
しかし、実行中にブタクマ或いは他の教師に見つかる可能性、それに引き出しから無くなったものにより犯人がわかってしまうというリスクの前にその計画は諦めざるを得ない。下手したら退学もあり得るのだ。
たとえ引き出し丸ごと盗んだとしても、教師達はもちろん、他の犠牲者達からの追跡を逃れることは出来まい。
しかし、リスクさえ背負えば。
明日を捨て、今日に残された僅かな時を生きる。
その覚悟さえ決めれば、とりあえずの成功と戦利品を得ることは不可能ではない、むしろ可能性は大きい。
そして知子はその決意をしたのだ。
教室に入ると、
「あっ、知子大丈夫だった、なんか取られてない?」
と、友達が聞いて来た。
「大丈夫だよ、なんもなかった。遅刻じゃないからね」
知子は笑って応える。
決意は誰にも知られてはならない。知られた時点で今日の勝利も、僅かに、未来には何が起こるか誰にもわからないという理由で、残された未来への希望も断たれる。それが女子校という場所だ。
今日は土曜、授業は昼まで、体育職員室は昼過ぎ、飯を食い終わり部活の時間になれば体育教師達は担当の部活へと出払い、用のない奴は帰宅する。
必ず空く時間があるはず。
知子は授業が終わると、「今日は家でオヤジが待ってるんだよ。大丈夫。時間までには帰ってくるから」と、友達に言い残し、人目を避けながら体育職員室の前を張った。