“コスメティックもろざし”(二十九)
ぎろりと睨みながら、猪熊はその生徒に近づいてゆく。
その顔は教室に入ってきた時の笑顔からは想像も出来ない、暗く、憎しみさえ称えた暗黒の面構えだ。
その生徒は近づいて来る巨体にも動じた様子を見せず椅子に座ったまま猪熊をねめあげている。
猪熊の足が止まる。
2人の距離は1メートルに満たない。
数瞬の視殺戦。
猪熊の圧力に耐えられなくなったか、その生徒が、
「なんだよ、てめぇ、ブタのくせしてうぜぇんだよ」
と、言い放った。
言い終わるとほぼ同時にその生徒は宙に浮いた。あろうことか彼女の机も彼女の太ももに乗っかり一緒になって浮いた。
猪熊がその生徒のシャツの胸辺りを掴み、一気に頭上高くまで持ち上げたのだ。もちろん片腕で。
あぁ、なんて丈夫なシャツなのだ、ブラも透けて見えるほどなのに。
はぁ、破けたならアレがあーなったりこーなったり、下手したら蛇の舌みたいにちょろっと…………。
ではなく、猪熊の手はシャツを掴んだ瞬間、その大きな手のひらと、ぼろぼろになりながらも体に残っている強烈な握力により、たくさんの布地を手の中に巻き込んでしっかりと相手を固定する。
従って背中の布地は襟の下から尻の裂け目…もといスカートに吸い込まれる直前まで左右から引っ張られ紅海の如く真っ二つに割れている。それでも張り詰めた布地はボンレスハムを縛るたこ糸のようにその生徒の体を縛りつけている。
爆発的な瞬発力、相手の体をコントロールするテクニック。
それら相撲で培ったものと、自身と相手の呼吸のタイミングを最高の瞬間で合わせることによりはじめて出来る至極の芸当なのだ。
長いブランクがあるのに、しかもプッツンしているのに、当然の如くこんな芸当が出来るとは。やはり猪熊という男は怪物である。
その生徒は空中で止まっている。
口を開けてこっちを見ている友達と目が合った。
まだ合っている。
太ももの肉がにじっていく感覚があった。
ガシャン
机が床に落ちた。
と同時に、猪熊はその生徒をぶん投げる。容赦なく。
その生徒は回転した。
新体操のリボン、能役者が振り回す着物の袖の動きが如く、回転の中心である胸の辺りが止まって見える。
その生徒は肩甲骨を床に腰を壁に打ちつけて止まった。スカートはギリギリパンツを守っている。
床と壁に打ちつけられた勢いは凄かったのだが不思議と音はしない。打ちつけられたというよりも、すっぽりはまった、というような感じだ。
その生徒は自身がどうなっているのかわかってないのだろう。きょとんとしている。
「きゃあぁぁぁぁああぁ」
ことが始まって初めて周りから声がしてざわめき始めた。
「と、知子ぉ」
どこからか声がした。投げられた体勢のままの生徒がその声に反応する。
猫の如く体を捻り立ち上がる。どうやら体は大丈夫なようだ。
「てめぇ、ブタクマぁ」
知子と呼ばれた生徒はここで引いたら面目を失うことを知っている。情けない姿を見せたら今後の学校生活に支障をきたす恐れがある。
それを聴いた猪熊はこめかみをピクリと動かし再度その生徒、知子に近づいていった。
続
その顔は教室に入ってきた時の笑顔からは想像も出来ない、暗く、憎しみさえ称えた暗黒の面構えだ。
その生徒は近づいて来る巨体にも動じた様子を見せず椅子に座ったまま猪熊をねめあげている。
猪熊の足が止まる。
2人の距離は1メートルに満たない。
数瞬の視殺戦。
猪熊の圧力に耐えられなくなったか、その生徒が、
「なんだよ、てめぇ、ブタのくせしてうぜぇんだよ」
と、言い放った。
言い終わるとほぼ同時にその生徒は宙に浮いた。あろうことか彼女の机も彼女の太ももに乗っかり一緒になって浮いた。
猪熊がその生徒のシャツの胸辺りを掴み、一気に頭上高くまで持ち上げたのだ。もちろん片腕で。
あぁ、なんて丈夫なシャツなのだ、ブラも透けて見えるほどなのに。
はぁ、破けたならアレがあーなったりこーなったり、下手したら蛇の舌みたいにちょろっと…………。
ではなく、猪熊の手はシャツを掴んだ瞬間、その大きな手のひらと、ぼろぼろになりながらも体に残っている強烈な握力により、たくさんの布地を手の中に巻き込んでしっかりと相手を固定する。
従って背中の布地は襟の下から尻の裂け目…もといスカートに吸い込まれる直前まで左右から引っ張られ紅海の如く真っ二つに割れている。それでも張り詰めた布地はボンレスハムを縛るたこ糸のようにその生徒の体を縛りつけている。
爆発的な瞬発力、相手の体をコントロールするテクニック。
それら相撲で培ったものと、自身と相手の呼吸のタイミングを最高の瞬間で合わせることによりはじめて出来る至極の芸当なのだ。
長いブランクがあるのに、しかもプッツンしているのに、当然の如くこんな芸当が出来るとは。やはり猪熊という男は怪物である。
その生徒は空中で止まっている。
口を開けてこっちを見ている友達と目が合った。
まだ合っている。
太ももの肉がにじっていく感覚があった。
ガシャン
机が床に落ちた。
と同時に、猪熊はその生徒をぶん投げる。容赦なく。
その生徒は回転した。
新体操のリボン、能役者が振り回す着物の袖の動きが如く、回転の中心である胸の辺りが止まって見える。
その生徒は肩甲骨を床に腰を壁に打ちつけて止まった。スカートはギリギリパンツを守っている。
床と壁に打ちつけられた勢いは凄かったのだが不思議と音はしない。打ちつけられたというよりも、すっぽりはまった、というような感じだ。
その生徒は自身がどうなっているのかわかってないのだろう。きょとんとしている。
「きゃあぁぁぁぁああぁ」
ことが始まって初めて周りから声がしてざわめき始めた。
「と、知子ぉ」
どこからか声がした。投げられた体勢のままの生徒がその声に反応する。
猫の如く体を捻り立ち上がる。どうやら体は大丈夫なようだ。
「てめぇ、ブタクマぁ」
知子と呼ばれた生徒はここで引いたら面目を失うことを知っている。情けない姿を見せたら今後の学校生活に支障をきたす恐れがある。
それを聴いた猪熊はこめかみをピクリと動かし再度その生徒、知子に近づいていった。
続