“コスメティックもろざし”(十九)
「芽賀!お前、逃げ出したんじゃないのか?」
熊若丸が階段から落ちたのは芽賀が部屋から消えた日の翌日だ。それ以来部屋の動向をまったく知らずに今日に至る。だから芽賀は部屋から逃げ出したと思っていた。
それが今まわしをつけて目の前にいる、しかも筋骨隆々、入院前の熊若丸以上、になって。熊若丸の混乱はいかばかりか。
「逃げ出す?フン、違うね。引き抜かれたのさ」
芽賀は鼻で笑いながら熊若丸に話す。
「あの日から俺は根来さんのSPになったんだ。…今日は根来さんの提案であいつらに稽古をつけてやるのさ」
「稽古をつける?お前がか?」
熊若丸はギロリと芽賀を睨みつける。相撲及び体育会系の縦社会に真面目な男なのだ。親友とはいえ兄弟子達(芽賀にとっても)を見下す芽賀に怒りをあらわにする。
しばし睨みつける熊若丸。しかし芽賀はわずかではあるが笑みを浮かべている。
「ラニオ君、ちょうどいい。熊若丸さんにも稽古をつけてあげなさい。ねぇ、いいよねぇ、熊若丸さんも暴れ足りないよねぇ、…加藤だけじゃあねぇ」
根来はお気に入りのアニメが始まる前の子供みたいに目を爛々と輝かせて愉快そうに話した。
「はい」
芽賀は素直に返事をし、根来と共に稽古場へ向かった。
熊若丸はなにかを言いかけたが、黙って追う。噛み締められた奥歯は悲鳴をあげている。
客間に残された加藤はまったく動かず、床に口づけをしている。
続
熊若丸が階段から落ちたのは芽賀が部屋から消えた日の翌日だ。それ以来部屋の動向をまったく知らずに今日に至る。だから芽賀は部屋から逃げ出したと思っていた。
それが今まわしをつけて目の前にいる、しかも筋骨隆々、入院前の熊若丸以上、になって。熊若丸の混乱はいかばかりか。
「逃げ出す?フン、違うね。引き抜かれたのさ」
芽賀は鼻で笑いながら熊若丸に話す。
「あの日から俺は根来さんのSPになったんだ。…今日は根来さんの提案であいつらに稽古をつけてやるのさ」
「稽古をつける?お前がか?」
熊若丸はギロリと芽賀を睨みつける。相撲及び体育会系の縦社会に真面目な男なのだ。親友とはいえ兄弟子達(芽賀にとっても)を見下す芽賀に怒りをあらわにする。
しばし睨みつける熊若丸。しかし芽賀はわずかではあるが笑みを浮かべている。
「ラニオ君、ちょうどいい。熊若丸さんにも稽古をつけてあげなさい。ねぇ、いいよねぇ、熊若丸さんも暴れ足りないよねぇ、…加藤だけじゃあねぇ」
根来はお気に入りのアニメが始まる前の子供みたいに目を爛々と輝かせて愉快そうに話した。
「はい」
芽賀は素直に返事をし、根来と共に稽古場へ向かった。
熊若丸はなにかを言いかけたが、黙って追う。噛み締められた奥歯は悲鳴をあげている。
客間に残された加藤はまったく動かず、床に口づけをしている。
続