“コスメティックもろざし”(十八)
それでも芽賀は稽古を休まなかった。
肩はきしみ、頭から包帯が外れない日はない。
死んだ魚のような目をして、何度も何度も立ち上がり、気絶してもなお吹き飛ばされてゆく。
続けていけばいつかなんとかなる。また認められるはずだ。芽賀の胸の内に去来した思いや如何に。
いつしか、「ゾンビ」、と、呼ばれるようになった。芽賀の思いとは裏腹にゾンビと呼ばれ始めてから芽賀へのかわいがりは一層強くなっていった。
あいつはゾンビだから大丈夫、なにやっても死なない。
兄弟子達はゾンビという言葉のイメージを芽賀に仮託した。陰の痛みはより深く鋭く芽賀を傷つける。
そんな芽賀を見ていても猪熊は心配、というものはしなかった。
兄弟子達のかわいがりに多少、ひどいな、と思ったものの、それは芽賀が強くなる為の稽古だと信じていた。なにより日々の稽古を休まない芽賀を信じた。
あぁ猪熊の純粋さよ。
入門初日以来芽賀が猪熊を遠ざけていたこともあったが、猪熊は芽賀が俺に頼らずに頑張っていくのだ、という決意だと思っている、芽賀が日に日にやつれていっていることに、大学時代には見せたことのない濁った目の輝きに、猪熊は気がつかなかった。
入門して1年、ついに芽賀の肉体と精神が折れた。
稽古の時間になっても芽賀は稽古場に現れない。気になった、というよりも虫の知らせの如く、猪熊もとい熊若丸は芽賀を探した。
芽賀は布団の中にいた。寝てはいない。布団を頭から被っている。
熊若丸は激怒した。熊若丸にとってこの日の芽賀がとった行動は許せない。芽賀はやり遂げる男だ。途中で放棄するようなやつではない。俺を、俺とお前の友情をうらぎるのか。
「おい、てめぇなにしてんだ!サボるつもりか!」
熊若丸は怒鳴りつけた。部屋中に響き渡るほどに。
即座に布団のなかから、
「ブタクマ、おまえもか…」
と、か細い声がした。
意味もわからず熊若丸が布団を剥ぎ取ろうとした瞬間、後ろから声がした。
「もういい熊若、今はほっとけ、総理が来た、土俵にあがれ」
親方だ。
熊若丸は奥歯を噛みしめながら稽古場へと戻った。
そしてこの日の稽古が終わると芽賀は逐電していた。
続
肩はきしみ、頭から包帯が外れない日はない。
死んだ魚のような目をして、何度も何度も立ち上がり、気絶してもなお吹き飛ばされてゆく。
続けていけばいつかなんとかなる。また認められるはずだ。芽賀の胸の内に去来した思いや如何に。
いつしか、「ゾンビ」、と、呼ばれるようになった。芽賀の思いとは裏腹にゾンビと呼ばれ始めてから芽賀へのかわいがりは一層強くなっていった。
あいつはゾンビだから大丈夫、なにやっても死なない。
兄弟子達はゾンビという言葉のイメージを芽賀に仮託した。陰の痛みはより深く鋭く芽賀を傷つける。
そんな芽賀を見ていても猪熊は心配、というものはしなかった。
兄弟子達のかわいがりに多少、ひどいな、と思ったものの、それは芽賀が強くなる為の稽古だと信じていた。なにより日々の稽古を休まない芽賀を信じた。
あぁ猪熊の純粋さよ。
入門初日以来芽賀が猪熊を遠ざけていたこともあったが、猪熊は芽賀が俺に頼らずに頑張っていくのだ、という決意だと思っている、芽賀が日に日にやつれていっていることに、大学時代には見せたことのない濁った目の輝きに、猪熊は気がつかなかった。
入門して1年、ついに芽賀の肉体と精神が折れた。
稽古の時間になっても芽賀は稽古場に現れない。気になった、というよりも虫の知らせの如く、猪熊もとい熊若丸は芽賀を探した。
芽賀は布団の中にいた。寝てはいない。布団を頭から被っている。
熊若丸は激怒した。熊若丸にとってこの日の芽賀がとった行動は許せない。芽賀はやり遂げる男だ。途中で放棄するようなやつではない。俺を、俺とお前の友情をうらぎるのか。
「おい、てめぇなにしてんだ!サボるつもりか!」
熊若丸は怒鳴りつけた。部屋中に響き渡るほどに。
即座に布団のなかから、
「ブタクマ、おまえもか…」
と、か細い声がした。
意味もわからず熊若丸が布団を剥ぎ取ろうとした瞬間、後ろから声がした。
「もういい熊若、今はほっとけ、総理が来た、土俵にあがれ」
親方だ。
熊若丸は奥歯を噛みしめながら稽古場へと戻った。
そしてこの日の稽古が終わると芽賀は逐電していた。
続