“コスメティックもろざし”(十七)
芽賀はいずれ強くなる。
猪熊は芽賀の力を信じていた。毎日ボロクソにされながらも毎日一番練習をしている芽賀の強さを。現に、相変わらず弱いとはいえ入部当時と比べれば体の大きさも相撲の強さも月とすっぽんだ。
だから、部屋からもう一人つれてこいと言われた時、真っ先に芽賀へ話をした。
芽賀は猪熊が自分に話を持ってきてくれたことが嬉しかったし、これまでの自分を評価してくれていることに涙を流した。
「ありがとう」
泣きながら握手をして芽賀は誘いに乗った。
握った手から互いの感情が交錯する。俺とおまえは運命共同体。気がついたときには猪熊の頬に涙が豪快な滝をつくっていた。
だがしかし、入門初日、二人の運命にヒビが入る。
猪熊は圧倒的に強かった。初日の稽古から部屋の幕下力士はもとより、関取でさえ誰もかなわなかった。しかしそれはわかっていた事態でもあった。そのために芽賀がいたのであった。
芽賀は猪熊へのいいようのない怒りや嫉妬、その他諸々普通の人間なら誰もが持つ暗黒面の消費に使われた。
“かわいがり”
大学時代も毎日ボロクソにされたが、それは仲間からのものであり尊厳があった。いわば陽の痛み。
しかし部屋の力士達のそれには尊厳などない。躊躇なく地面に叩きつけられ、何度も顔を張られ、そのたびに「不甲斐ない」と額を木刀で叩かれる。額、鼻、口、耳から
血を流しボロ雑巾のように扱われる。しかもそれは「不甲斐なくない」猪熊に向けられた感情の代替えである。物として扱われる痛み。いわば陰の痛み。
芽賀はこの痛みを知っていた。
壮絶な過去が芽賀を覆い尽くすのに時間はいらなかった。
初日の稽古が終わり親方から笑顔で肩を抱かれる猪熊を見た芽賀の目から輝きは失われていた。
続
猪熊は芽賀の力を信じていた。毎日ボロクソにされながらも毎日一番練習をしている芽賀の強さを。現に、相変わらず弱いとはいえ入部当時と比べれば体の大きさも相撲の強さも月とすっぽんだ。
だから、部屋からもう一人つれてこいと言われた時、真っ先に芽賀へ話をした。
芽賀は猪熊が自分に話を持ってきてくれたことが嬉しかったし、これまでの自分を評価してくれていることに涙を流した。
「ありがとう」
泣きながら握手をして芽賀は誘いに乗った。
握った手から互いの感情が交錯する。俺とおまえは運命共同体。気がついたときには猪熊の頬に涙が豪快な滝をつくっていた。
だがしかし、入門初日、二人の運命にヒビが入る。
猪熊は圧倒的に強かった。初日の稽古から部屋の幕下力士はもとより、関取でさえ誰もかなわなかった。しかしそれはわかっていた事態でもあった。そのために芽賀がいたのであった。
芽賀は猪熊へのいいようのない怒りや嫉妬、その他諸々普通の人間なら誰もが持つ暗黒面の消費に使われた。
“かわいがり”
大学時代も毎日ボロクソにされたが、それは仲間からのものであり尊厳があった。いわば陽の痛み。
しかし部屋の力士達のそれには尊厳などない。躊躇なく地面に叩きつけられ、何度も顔を張られ、そのたびに「不甲斐ない」と額を木刀で叩かれる。額、鼻、口、耳から
血を流しボロ雑巾のように扱われる。しかもそれは「不甲斐なくない」猪熊に向けられた感情の代替えである。物として扱われる痛み。いわば陰の痛み。
芽賀はこの痛みを知っていた。
壮絶な過去が芽賀を覆い尽くすのに時間はいらなかった。
初日の稽古が終わり親方から笑顔で肩を抱かれる猪熊を見た芽賀の目から輝きは失われていた。
続