“コスメティックもろざし”(十五) | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

“コスメティックもろざし”(十五)

頭から突っ込んでくる熊若丸に対して、加藤はパンチを放つ。
だが壁を背にし、右足は地を踏むことも出来ず頼みの左足もガタガタとふるえている状況だ。打撃のプロとはいえ如何せん。
加藤の拳は熊若丸の頭に当たったが情けなく弾き飛ばされた。
次の瞬間、
どんっ
という音と共に熊若丸の頭は加藤の胃あたりにめり込んだ。
“どんをかます”というプロレス界の隠語がある。これは相撲出身のレスラーが得意とするシュート(喧嘩試合)になったとき(或いは仕掛けるとき)の必殺技である。
やり方は至って単純で、出合い頭に頭でおもいっきり相手の胸を突くというものだ。
これをやられた相手はどんなに鍛えられたやつでも気絶、もしくはうずくまり、しばらく身動きがとれなくなるという。
熊若丸はこれをしたのだ。しかも壁を背負っている相手に。
加藤は白目をむき、泡を吹いた。全身から力が抜け、だらりとしている。しかし倒れない。なぜなら熊若丸がめり込んだ頭を“壁”から離さないのだ。その様子は昆虫採集でピン刺しになっているセミのようである。
「死んだな」
熊若丸は思った。その言葉が興奮状態でまっさらな脳みそにでかでかと浮かびあがった。
数秒の後、熊若丸はゆっくりと頭を抜く。
加藤は糸の切れたあやつり人形のように倒れた。その時、熊若丸の後ろから拍手が鳴った。
振り返るとそこには笑いながら手を叩く根来と、横でじっとこっちを見つめているまわしを締めた男がいた。
まわしの男の体は凄まじく発達した筋肉の塊だ。腹筋は6つに大きく割れ、腕は象の鼻より太くボコボコと大きな陰影を描く。なかでも肩から首筋にかけては異様なほど盛り上がっていた。
その男は目が合うなり、「よぉ、ブタクマ、久しぶりだな」
と、声をかけてきた。
脳みそはいまだ興奮状態であったが熊若丸はこの男が誰であるか気がついた。