“コスメティックもろざし”(十一) | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

“コスメティックもろざし”(十一)

「お久しぶりですね、熊若丸関」
客間のソファーに座った色白の男がねっとりとした口調で熊若丸に話しかける。
「………失礼だが、あなたはどちら様で?」
「あぁ、いやはや、いやぁ、これはこれは、こちらが失礼、覚えてなくても当たり前ですよ、こっちがあなたの事をよく知ってるもんだからって、ねぇ」
「はぁ…」
「はっはっはっ、ねぇ、まったく、ねぇ」
「はぁ…」
「はっはっはっ……で何の話でしたかな?ん、ああそうだ、私は、ほら、根来(ねごろ)総理の秘書ですよ。まぁ今は代議士になりましたがね。総理がここへ稽古を見に来たことがあったでしょう。あの時、そう確か1年ぐらい前ですか、総理のお供で私もいたんですよ、ははははっ」
こいつは“ぬらりひょん”だ。
熊若丸は眼前にいる男のことを思い出した。それと同時にショック状態でぼんやりしていた脳に意識が押し寄せてくる。
1年前、正確には364日前、俺が階段の上で突然意識が飛んだ前の日、ぬらりひょんの言う通り根来総理は稽古を見学しに来た。テレビは来なかったんだよなぁ、あの時俺達は来ることを知らなかったから驚いたっけ、親方もひどく驚いてたなぁ、親方も知らなかったのか?総理はニヤニヤしながら見てて、たまにぬらりひょんと何か話してたなぁ。私語禁止なのに。稽古が終わったあと、ぬらりひょんに“ぬらりひょん”ってあだ名をつけたんだ、みんなで、楽しかったなぁ。そっくりだもんな、ぬらりひょん。そういえば総理の息子だったっけ…………。
「……熊若丸さん、どうかしましたか?」
ぼぉーっとして、よだれさえ垂らし始めていた熊若丸はぬらりひょんの声で現実へと戻った。