ボツ台本わからなくはない閣総理大臣 | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

ボツ台本わからなくはない閣総理大臣

「読まないのも自由っていうじゃない」



『わからなくはないんだよね』
「何が?」
『他人の心理ってやつ』
「ああ、一時期、ていうか今もか?お前テレビとかのニュース観られなかったもんな。なんかの事件の犯人が捕まる映像が流れると、おれがいる、テレビの中におれがいるっつってコビトハツカネズミのように震えてた」
『詳細は省くけどな』
「色々と問題あるからな」
『でもそんなおれの気持ちわからなくはないだろ?』
「いや、よくわからねえな」
『おい!お前はなんだ!?ニャントロ星人か?』
「ニャントロ星人ってお前。お前が思っているほどニャントロ星人の知名度無いぞ」
『ニュースキャスターとか文化人が、例えば家族殺しなんか起こるとしれっとした顔で、社会がおかしい、政権交代だ、ゲーム脳だ、ネット脳だ、とか言ってさ。絶対に、その気持ちわからなくはない、とは言わないでしょ』
「そりゃそうだろ。犯罪を肯定しちゃならんし、死人がでた犯罪の場合被害者側家族の心情にも気を使わないと駄目だ」
『でも本当はその気持ちわからなくはない筈なんだ』
「おれは家族殺しなんか全くわからないが」
『お前は黙れ。例えばおれなんかある時期やや痴呆がかった祖母に顔を会わす度に毎回同じこと言われてさ。あーしろこーしろあんたは本当は出来る子だなんだとか』
「孫思いのいいお婆ちゃんじゃない」
『世間にはそう思われるんだよ。ましてや人口は若い奴より年寄りのが多いんだからさ。また自分もそう思うんだ。おれのこと心配してんだなって心から思う。それがわかってるから何も言えない。自分の中で処理するしかない。辛いんだ。軽い痴呆だからか暇な老人だからか毎回だぜ?同じ話を毎回。それはそれはまいったもんだよ。その延長線上に確かに殺意はある』
「怖いな」
『だからニュースとか観られなかった。そういう事件起こるとテレビの中におれがいるんだもん。だから嵐のメンバーはわかるけど』
「NEWSのメンバーはって安易なんだよお前は」
『ま、おれはしないけど。模倣犯、流行のというか時世に流されたと思われるのは癪だからね。そういう意味ではいい方に作用してると言えなくもない』
「まあするなよな」
『最近父親に怒られたとかで誰でもいいから殺したくなったってのあったろ』
「ああ、自営業の家庭のやつな」
『あんまり言いたくはないけどそれもわからなくはない。もちろん最低最悪な野郎だしおれはやらないよ。本当に最悪な野郎だよ。でも犯人の心情がわからなくはない。別に犯人を、行動を肯定してるわけではないことを注記しておく。最低な野郎だ。この事件観てまたテレビの中におれがいるってなった。傍迷惑なんだ。ピンときたよこいつに。犯人と父親がどんな関係だったかは知らないが、ピンときちゃったんだ。おれも父親がトラウマだからね。子供の時から』
「なんでよ?」
『あいつ躾じゃなくて感情で怒るんだよ。てめえのガキにさ。自身の心情からくる100パーセントの怒りをぶつけてくるんだ。イライラをぶつけられた。特におれがガキの頃は仕事が忙しかったこともあったのかよくイライラしてた。物心ついた時には既に父親に気を使ってたからね。怖い存在でさ。とてもじゃないけど話しかけることなんて出来なかった。当然口応えなんて出来ない。おれ電話かかってくるの嫌いなんだけどさ。それは電話がかかってくると父親が不機嫌になることに起因しているんだ。おれが電話に出て、それが父親への電話だったら電話だよって父親に繋ぐのが怖いからよく、居ません、って応じてた。家庭内居留守だよ。全くおれは年頃の娘を持つ父親じゃねえっつうの。本当にさ。今でもテレビで仲の良い親子とかみると不思議だもんな。恥ずかしい話、金持ちの家に生まれたかったなぁっていうのとおんなじように嫉妬するからね。あいつがいなけりゃどれだけうちは平和なんだろうってガキの頃からずっと思ってた。今はもう実家とほとんど繋がりないからどうでもいいし、今なら文句のひとつもなんとかかんとか言えるけどね。多分犯人も似たようなもん
だろ。ま、その感情を無関係な人に向けたのはいかんけど。父親を殺したならまだ事件は丸く収まるんだろうけど』
「丸くは治まらないだろ親殺しだぜ」
『だけどその気持ちわからなくはない。わからなくはない』
「するなよ絶対」
『人間の気持ちってやつは複雑なようでシンプルでさ。まあ基本哺乳類だからさ人間。そんな複雑な感情感知システムを持ってるわけないんだ。吊り橋効果っていうの?吊り橋を渡る恐怖感のドキドキが恋愛のドキドキと一緒みたいなさ。おかしいだろ恐怖と恋愛が繋がるなんてよ。でも実際人間の感情なんてそんな程度なんだよ。ドキドキはドキドキで悲しみは悲しみにしか過ぎない。親が死んだ時の悲しみも失恋の悲しみも好きなバンドが解散した時の悲しみも第一志望に落ちた悲しみも本質はあんまり変わらない。悲しみは悲しみ。大小もさして変わらない。まあんなこたあ大人になるにあたりみんな気付くだろうけど。イニシエーションみたいなもんだし』
「ま、そうだな」
『おれの私の気持ちわかってくれない、とか、わかってたまるか、とか実はみんなわからなくもない。血液型占いみたいにさ。あるあるだよあるある。唯一無二、オリジナルの感情なんてないんだ。今日はとっておきのワインを飲もうってのと今日は人を殺そうってのは心情的に変わらないんだ。行動が理解出来ないだけでね。心情はわからなくはない。共通なんだよ。逆に言えばそれだからこそストレスは発散出来るわけだから。抵抗をなんかに仮託して仮託して仮託すればいいわけ』
「なるほどねぇ」
『わからなくはない。わからなくはないんだ。ちくしょう。おれの、おれが感じているこのモヤモヤもイライラも虚しさもアパシーも矛盾も偏執も憂鬱も厭世感も虚無感も恐怖も憎しみも愛もみんなみんな、わからなくはない。他の奴らにもわからなくはない。個性もおれの全てもわからなくはない。わからなくはないんだ!どうすりゃいいんだ!そんな気持ちもわからなくはない。あああああ…』
「結局こうなるのね」



終わり。眠い。