灰皿と灰とけむ猫(7)続き | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

灰皿と灰とけむ猫(7)続き

気のいい奴ですぐに打ち解けて友達になったこと。辞書片手に日本語を教えたこと。出稼ぎに日本へやって来て両親に仕送りしていたこと。中古車の輸出会社で働いていたこと。いまいち稼げないので副業を始めたこと。怪しい奴らの仲間になったこと。たまに部屋に帰らなくなる時が増えたこと。レザーを警察や怪しい奴らから守ろうと伊那荘の警備に精を出していたこと。別れの日が近いことを薄々感じていたこと。話し出したらあっちこっちに話題が飛ぶおっさんの話を要点だけ箇条書きにするとこうなる。
「雨ちゃんも最初あった時にあんなだったから俺ぁついに来たかと思ったもんだよ」
「ついに来たかってどっちですか?警察と怪しい奴ら」
「どっちも似たようなもんじゃねえか、ガハハ」
アテ無しの缶ビールが夕食を忘れさせる程腹に響く。
「大麻をやってようが犯罪者だろうが不法滞在だろうがなんだろうが俺ぁレっちゃんの友達なんだよ。相手が誰だろうがレっちゃんの部屋に入ろうとする奴ぁぶん殴ってたね」
「仏に会えばなんとやらですね。良かったぶん殴られなくて」
「もういいんだよ。雨ちゃんも、ま、もう友達だろ、もういいんだ。もうね。もういいんだよ。もうレっちゃん帰っちゃったし。もういいんだよ」
酔いが回り話していることがよくわからなくなってきたのでお別れ会はお開き。尚は合い鍵を貰うと早速合い鍵を使い街に出た。真っ直ぐ歩く。真っ直ぐあのチェーン店へ歩く。
尚はおっさんとレザーの関係に心揺さぶられていた。揺さぶられることは危険だ。結果的に心が明か暗かどっちに傾くかわからない。どちらにも傾かぬよう楔を打たなくてはならない。またこの思い出を忘れぬよう形に残さなくてはならない。尚はピアッサーを買い合い鍵を使って部屋に帰り、まだ穴が完成してないピアスの上に当てた。
がちこん。
「いっ…と」
尚の耳に新しい痛みと新しいピアスがひとつ。尚は消毒液を耳に吹きかけるとタバコをくゆらせ原稿用紙に向かう。灰皿に溜まる灰の量だけ原稿用紙は埋まって行く。