ボツ台本宵の決闘 | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

ボツ台本宵の決闘

「刀を買う人って身なりを気にしない人が多いんだってさ」



今まさに斬りかからんばかりの侍がふたり、相対している。決闘。

「…………」
『…………』
渺々と吹き抜ける風がやんだ。
「……いざ!」
『待てぃ!』
「何!?臆したか!」
『いや、雌雄を決する前に一つ気になることが出来た』
「む、武士の情けだ、言ってみろ!」
『うむ…実は今日7時からやるバカ殿を録画予約してきたか気になってな』
「バカ殿だと!?なにをこんな時に悠長な!勝ち残る気満々か!?そんなことにはならんぞ!拙者なんぞ家にあるエロ本を整理してきたというのに」
『……フハハハハハ』
「なんだ!なにがおかしい!死ぬかもしれない状況に置かれたらまずエロ関係を整理するのは武士の常識だろう!はっ!まさか勝負の前から負けることを考えていた拙者に“十兵衛敗れたり”なんて言うつもりか!」
『フハハハハハ!』
「…………」
『フハハハハハ!』
「だからなんだと言っておるのだ!」
『フハハハ…ゲフゲフ…フハ…ゲフ』
「むせるほど笑うな!」
『フハハ…ゲフ……はぁーあ、ふぅ……………いざ!』
「おい!自己解決するな!気になるだろ!なんで笑った!」
『この期に及んで気になることが出来るなど笑止!』
「笑いが止まると書いて笑止だけど!」
『臆したか十兵衛!いやぁ!』
「あ、危ねぇ!お主!殺す気か!」
『それはそうだろ!』
「確かに…しかしちょっと待てぃ!お主には武士の情けはないのか!」
『勝ちゃいいんだ勝ちゃ!死人に口無し!文句があるなら勝ってからほざけ!』
「くっ…このままでは死んでも死にきれん…そうだ!フハハハハハ!」
『気でもふれたか!』
「…お主、さっき録画予約がどうとか言ってたな!」
『むっ』
「今の時代ケータイでチェック及び操作出来るぞ!」
『むむ…あ、そっかそっか、ちょっとタイムいい?ほらほら武士の情け武士の情け』
「…いいだろう」
『よっしゃ!タイム、ゲットだぜ!じゃあ早速、えーと、確かアプリを起動してと、あれ?うーん、ねぇちょっと、お主やり方わかる?拙者カラクリ音痴なんだよね』
「どれどれ」
『えやぁ!』
「うわっ!貴様!タイムかかってんだろ!」
『ああ、まあちょっとチャンスかなって』
「正直!正直だけど!タイムだから!タイム!人の親切心踏みにじりおって!まったく、武士の風上にも置けん奴だ!」
『まあここ一年訳あって風呂に入ってないからな』
「ああ、風上に置くと風下が臭くなるよねってそういうことじゃねえよ!確かにさっきからちょっと臭いなって思ってたけど。拙者なんか昨日丹念に身を清め新しいふんどしをはいてきたのに」
『風呂の中に子猫が住み着いちゃって』
「なにその優しさ!」
『ほら、拙者猫アレルギーだからさ』
「ツンデレのツンか!?」
『違うよ!本当に!腐乱死体でもアレルギー出るからさ』
「見殺しか!最低だな!」
『ああ、マジで操作わかんねぇ、ちょっとマジで教えて、今度は斬りかからないからさ』
「…本当か?」
『…拙者が言うのもなんだがお主よく今まで生きてこれたな』
「くっ、ほっとけ」
『でも今回はマジ!ちょっと頼むよ!いやまじめに』
「そうまで言われて近づけるか!」
『臆したか十兵衛!』
「臆したよ!十分臆した!だから近づかん!」
『そう言わずにさ、頼むよ。もう始まっちゃうよぉ、ねぇ頼むよぉ、ビビってない!お主ビビってないないからぁ!』
「…斬りかかるなよ、ええい!拙者も武士だ!やってやる!」
『やった!…で、ここまできたんだけど』
「ああ、これはここをこうして、ほら、ここの確認画面を、ほら、ね。あ、ほら、バッチリ予約されてんじゃん」
『本当に!?』
「うんうん、バッチリだよこれ」
『ああ良かったぁ、今日のバカ殿は小早川秀秋だからさ』
「バカ殿ってそういうこと!?」
『前回は志村けんだったけど』
「もうわけわかんないな」
『いやぁ助かったよ。どうもね。なにかお礼を…あ、そういえばさっき河原にエロ本落ちててさ、大量に。あとで拾いに行かねえ?』
「中学生かよ!お礼がエロ本拾いって!…河原?…河原ってあの…その…ひょっとして橋の下の?」
『そうだよ』
「ああ…そう」
『まさか』
「それ…多分、拙者が捨てた」
『なんだよ、もったいねえなぁ。拙者に言ってくれれば引き取ったのに。拙者とお主の仲だ、なんならブックオフより高値で引き取ったのに』
「なんか気持ち悪いよそれ、決闘する相手にエロ本引き取ってもらうってのもなんだかなぁ」
『抜きすぎて刀が抜けないなんちて!ハハハ!いやしかしエロ本捨てるなよな。エロ本なんて見返す度に抜けるぜ?捨ててから後悔したって遅いんだからさ。お主抜かなかった?捨てる時に』
「一応明日死ぬかもしれないって思ってたから潔く捨てたのだが」
『そういう奴に限って死なねえんだよな。死にたい死にたいって言ってる奴ほど生きたくてしょうがねえもんなんだ』
「いや、そういうことじゃなくて、物理的にというか、次の日決闘の予定あったから」
『決闘って(笑)。中学生かよ』
「いや武士だよ」
『あっ武士なの?なんだ、それなら仕方ないな、うん、すまん。そうか決闘か、ハハハ』
「笑うなよ」
『いやすまんすまん。でもお主強いから決闘っつっても大丈夫だろ?』
「そうだけど今度の相手は強いから」
『そうなんだ…ここいらでお主の相手が出来るのは拙者だけだと思ってたんだけどなぁ、まあお主が討たれたら拙者が仇を討とう』
「…いいよ、そんなことしなくて」
『いやいや、遠慮すんなって。興味もあるしさ。ま、お主が負けたらって話だから、勝てばいいんだよ勝てば』
「まあ、そうなることを期待してるが」
『あ、戦法教えてやろうか?ま、さっきのお礼代わりにさ。まず相手と正々堂々闘おうなんて考えてちゃだめだよ。あ、ギャラリーはいるの?』
「いや、秘闘だから」
『なら尚更だよ。拙者だったらそうだなぁ、流石に罠を仕掛けたんじゃ武士の名に恥じるからなぁ、まず笑うね。うん、とにかく笑う。笑いってのは相手の油断を誘うからね』
「あ、ああ、なるほど、それでか」
『それで、ってあとは隙をついて斬りかかるんだよ』
「そのそれでじゃないんだけどな」
『まあそれでも駄目なら相手と話をして油断を誘うね。なんか流行りのテレビの話なんかしてさ。親密にさ。そうそう今の拙者達みたいに、こう、えやぁ!(刀を振り上げただけ)』
「うわああぁぁ!」
『おいおい!なにをそんなに驚いてんだよ。斬りかかるわけないだろ。決闘の話だよ決闘』
「ああ…ああそうか。すまん」
『突然斬りかかればお主の腕前なら避けられる奴なんていないよ』
「そうかな」
『そうだよ。ま、拙者を除けば、の話だけど』
「へへっ、こいつ」
『へへへ』
「えいやぁ!」
『ぐわぁ!……な、なんで………バタッ』
「………」
『………』
「……いい奴…だったなぁ…さぁ、エロ本を回収だ」


ふたりが何故決闘に至ったか、その由を十兵衛は黙して語ることはなかった。死人に口無し、生者に語る意志無し。河原のエロ本は十兵衛がかけつけた時既に近所のガキが回収しており、十兵衛の心には虚しさだけが残った。


終わり