読んだら損する「運命はテイクアウト」(35) | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

読んだら損する「運命はテイクアウト」(35)

僕が高校を中退してから初めて清水君と会ったから、実に約○年、四捨五入したら十年ぶりか。その間連絡っつう連絡も取っていない。そんなのばっかりだな。でも、ま、道助と違ってドロップアウターとグラデュエイターとじゃなんの接点もないから仕方あるまい。大学生活もあるしね。
清水君は相変わらずヤボテンで相変わらず大学生で、風の噂ってやつで多少は清水君情報を知っていたが留年してたことは知らなかった、嬉しくなってしまった。清水君は「今何してるの?」なんてことは聞かない。僕に気を使っているのではなくそんなことに大して興味が無いのだ。きっと。居心地がいい。
おそらく今後会う度に、会えればの話だが、何度も何度も繰り返し話すであろう思い出話。思い出話の清水君と今目の前にいる清水君は、最新SFXを使って作った今の清水君のCGすらかなわないほど、一寸も変わってない。清水君が出会った時から言い続けてること、「俺はスーパースターになる」、ただの中二病と言ってしまえばそれまでだが、清水君にとってはそれが自然だし、恥ずかしげもなく言ってのけ、尚且つ言い続ける清水君には「それだけがリアル」感すら漂う。
他愛の無い会話の中、清水君に言ってみた。
「俺がもし何かして警察に捕まってさ、お前にインタビューしにきたならさ、『そんなことする奴ではなかった。おとなしい普通の子でした』って答えてくれよ。あの歌の歌詞みたいにさ。お前友達じゃないだろ!話したこともないくせにさも仲良しだったように、って感じで」
清水君は少し笑って、
「あぁ、はいはい、胸下だけ画面に映ってる感じね」
と、言った。
別に僕は殺人をカミングアウトしたわけじゃないし、清水君にだって伝わりはしない。僕と清水君の会話なんていつもこんな感じ。冗談で言ったつもりだけど本心でもある。
僕は僕なりに捕まることに対して不安を抱いている。正直めちゃくちゃ不安だ。誰かに助けて欲しいぐらいだ。わがまま。だから今日清水君と飲んだし、こんなことを言ったんだ。清水君は僕が捕まった時、僕が捕まればそれなりに騒がれるだろう、ピーピング趣味のマスコミに今言ったようなことを言ってくれるだろうか。酒で感覚がなくなりかけている脳みそで壊れたレコードみたく何度も考えていた。
気がついたら清水君の家で寝ていた。頭がギリギリ痛む。巨漢レスラーにヘッドロックされているみたいだ。立ち眩みの時に感じる脳の渇きが喉を襲う。ただ喉が渇いてるって考えろよばかやろう。トイレに行こうとして、清水君の家の間取りは勝手知ったるものだ、立ち上がった瞬間、吐いた。ああ、脳みそは僕にこれを教えたかったのか。ばかやろうって言ってごめんね脳みそ。それを見た清水君が連れゲロ。床に僕と清水君の汚物カクテルの出来上がり。
床のものはひとまず置いといて、トイレと洗面台で二人はゲーゲー吐いた。部屋に戻ってまた吐いた。
シャワーを借りて家に帰る運びになった時既に太陽は気味が悪い紫色に空を染めていた。ラッシュの時間というわけではなかったけど、それでも電車内は身動き出来ない状態で、一回途中下車しなければならなかった。
家に着き、布団に潜り込む。コンビニで買ったカフェオレをストローで啜っているとようやく一段落ついた。
そのまま寝たらしい。点きっぱなしの電灯、テレビ、テレビは音量だけ絞られていた。夜。12時。
冷蔵庫の中に“ウコン大王”という栄養ドリンクの類が用意されていた。ここは家なんだ。無性にやりきれない。が、飲んだ。
ボンヤリする以外にやることがない。ウコン大王のおかげか食欲が出てきた。いや、昨日の夜、少しのアテを食った以来食ってないのだから腹が減って当然だ。断じてウコン大王のおかげではない。断じて違うよちくしょう。親が死んでも腹は減る、というアフォリズムだってあるんだ。ふざけんなよウコン大王。ちくしょうばかやろう。
なんにむかついているのか自分でもよくわからない。しょうがないので飯の準備。うどんを茹(う)でて湯を切り、猫舌だから水でしめる。鰹節をかけ熱湯を注ぐ。ちょうどいい具合にぬるくなる。醤油で味付け。うまくはない。けど、まずくもない。
そうこうしているうちにテレビから朝一番のニュースが流れ始めた。不意打ちだった。芸能人が大麻で捕まったニュースの後、あの事件、新しい事件の続報が流れた。
「若い長髪の不審な男性を目撃したという話が出ている」
ああ、そう。女子アナの唇。お前歳の割にかわいいな。
なんでか知らないけど、僕の体は喜びを体現していた。