読んだら損する「運命はテイクアウト」(31) | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

読んだら損する「運命はテイクアウト」(31)

「あぁ、健一君、お酒は何がいい?」
最後の抵抗を試みる。
「小山さんが呑んで下さいよ。帰りは僕が運転しますから」
まあ多少無理がある。
「いやいや、ありがたいけどね。構わずやってよ。あの車僕にしか保険効かないしね。だから、ま、気にしないで」
まあ、そうなるわな。誘ったのあっちだ。代行もあるが、どうせ呑む気はないのだろう。
「あ、そうだ。健一君今月誕生日だよね?」
「へ?」
今月は僕の誕生月ではない。半年以上先の話だ。
「ほら、今月誕生日だったでしょ。ね」
小山さんはウィンクをしてきた。なんともはや。似合わない。呆れるほど似合わない。まぶたでちょっとした風が発生しそうな重いウィンク。錆だらけのシャッターを降ろす様なウィンク。目の前を新幹線が走り抜けたかのような…って、とにかく不細工なウィンク。
「ちょっと小山さん、勘弁して下さいよ」
店員が、弱ったなぁ、という感じで言った。
「いやね、ここ、誕生日の月の人は一杯サービスしてくれるんだよ。ははは。だから、さ」
意外に器が小さい、というか等身大の小山さんを見たというか、僕は少し笑ってしまった。僕の知らない、仲間内での小山さんは案外こういう小手先のことを楽しんだりする人のようだ。小山さんは友達の店に行けばむしろ余分にお金を払うようにするタイプだと漠然とではあるが思っていた。それは外見上のイメージに過ぎなかったようだ。
「はい、今月です」
まあ、ここで、いや違います、と答えるわけにはいかんだろう。
「もう、本当はそれを証明出来るものが無ければ駄目なんすからね。まったく。キミ、こんな人と付き合っててもいいことないですよ」
店員はオーバーアクション気味に言う。
「おいおい、お前、あのこと…」
「ああ、それは言わない約束でしょうが!まったく。もうわかりましたよ、わかりましたから、で、何にします?」
「それがお客様に対する態度か」
「そういうことはちゃんとお客様にふさわしい態度ってもんをしてから言って下さいよ」
この二人デキてんじゃないかというような気持ち悪い掛け合いが続きそうなので終止符を打とうと、「ええ加減にしなさい」、の代わりに、「じゃあビールで」、と、マッドクラブのいる穴に手を突っ込む様な気持ちになりながら言ってやった。よし、策はなった。
運ばれてきた鶏料理の数々はどれも大変おいしく、今まで食べてきた鶏は一体何だったの!?的な某料理んぼ漫画みたいなことに…っと、そこまでには至らなかったが、至らなかったのかよ、まあ、味をしっかり確かめるような状況ではなかった割にはやたらおいしかった。わかんねえよ。
この日の小山さんは饒舌で、さっきの店員が後輩であるということ、オーナーが大学同期であること、オーナーは三十半ばにしての大学生活であったこと、さっき店員に遮られた言わない約束の続き、等を次々と喋り、喋っては食い、食っては喋り。
お酒は日本酒に変わり、僕は酔っ払わないように注意しながらチビチビ飲み続けた。注意はしていたのだが、僕の声量は大きくなる一方、まあ多少は酔っ払わないと普通ではないのだが、それに従い気も大きくなっていき、ついつい彼女について色々なことを聞いてしまう。それは大チョンボとでも言うべきものなのだが、止められない。僕の中にある小山憎しという感情が酒の力で表層に現れてきたのだ。開放されつつあるのだ。まずいことではあるけれど、止めるのも僕なら声を大きくしているのも僕なのだ。
小山さんは僕の発するいくつかの暴言をうまくかわしながらニコニコ笑顔で応える。その笑顔を、駄目だ駄目だと思いながらも、崩してみたくてしょうがない。犯人とそれを追うものの茶番劇。殺した後愛する者と殺される前殺された後も愛し続ける者。どう考えても僕に勝ち目はない。彼女は今でも小山さんの後ろにいる。でも唯一、僕は小山さんの知らない彼女を知っている。…小山さんはそれ以外の彼女の全てを知っている。
半ば自棄糞になって小山さんに突っ込んでいく。が、小山さんにとってそれらは顔の周りを飛んでる蚊程度にしか過ぎないらしい。もどかしい。もどかし過ぎる。奥歯に挟まった繊維よりもどかしい。心が痒い。掻きたいけど掻けない。