読んだら損する「運命はテイクアウト」(27)
「さてと、時間とらせたね」
小山さんはようやく太ももを動かした。おそらくブレーキペダルの何倍もある足。踏みつぶされるペダル。ハンドブレーキを器用に外して軽自動車は発進した。バックミラー越しに見る公園は段々ぼんやりと、小さく、他の景色に吸い込まれて見えなくなって消えた。僕や小山さんや彼女や彼女の家族にとって一生忘れられない公園。どうでもいい人達に忘れられていく公園。いずれ奇異な視点からも記憶からも消えていく。花も置かれていないもの。
来客中。家に例の社長が来ていた。小山さんは僕を降ろすと、「じゃあよろしく伝えといて」と言って去って行った。僕のことに気づいた社長は作り笑顔をして僕に手を振った。ちょっと少し前、助手席のドアを閉めるまで、運命の別れ道、大一番、まるで真空の中にいたみたいな時間を過ごした僕はさっさと部屋に行っていつもの空気を吸いたいのだが、僕も、どちらかと言えば苦笑いに近い、笑顔をつくって応える。
「おぉ、健一、おつかれさん」
社長にそう言われた瞬間、急にくたびれた。
「いや、どうも」
「健一ぃ」
あぁ、仕事の話だ。社長が僕の名前を少し伸ばして言う時は仕事の話だと決まっている。今の気分ではとてもじゃないけど仕事なんかしたくない。元々仕事をしたくないからニートなのだが、とにかく、今、そんな話はしたくない。たった今、僕は僕の運命を持ち帰って来たばかりなのだから。だけど当然社長は続ける。
「明日から仕事があるんだけどさ」
「はぁ」
この気の抜けた僕の返事で交渉は決まったも同然だ。断らない自分。もう断れない自分。嫌悪する。
「手紙を配る仕事なんだけど、今回はポストに入れるだけのね。判子とかはもらわなくていい。どうだい?」
どうだい?と聞かれても、社長の中ではもう僕は戦力として計算されているんだろ。
「はぁ、大丈夫です」
この言葉しか出ないのだ。いや、僕はいつもこの言葉しか出せない。情けないとは思うけど、かなり死にたくなる。なら断ればいいのにね。
「おう、じゃあ明日、ま、明日中に配りきらなきゃいけないってもんじゃないから午前中に来てくれればいいよ。多分二、三日かかると思う。一応自転車は用意してあるけど」
「いや、チャリンコで行きますから」
「うん、わかった。じゃあ明日、よろしく。ではでは用件も済んだことですし」
別れの挨拶を済ますと、すぐさま部屋に戻りベッドに横たわる。明日の事を考えると絶望的な気持ちになる。うん。死にたい。日本が銃社会で手軽に銃が買えたなら僕はとっくに自殺していることだろう。僕の自殺はいつもそう。だろうだろうで、とても飛び降りなんて出来やしない。以前、よっしゃあ!家中の薬を飲みまくってやる!って意気揚々と手当たり次第に飲みまくったことがあるけど、それぐらい。本当に死ぬ気があったのか疑問だ。うちに睡眠薬ないし。どうせ死なない、なんて計算してたに違いない。そしてその通りにただ少し寝て、猛烈な吐き気に襲われて吐いて、やけに口の中が乾いて、胃がムカムカして、そんな程度だった。まあ半分は優しさで出来ているものや、胃に優しい胃薬とか、関節の炎症を抑える薬じゃこんなもんだろう。あ、アレルギーの薬もあったな………はは…。
道助のことを考えているうちに眠ってしまった。そういや昨日寝てなかった。気が付いたら午前4時。もう無理矢理にも眠れない。寝過ぎて頭痛い。軽い頭痛がしていることを除けば体は至って元気で、食事を取るように促す。牛乳を飲み、頭痛薬を飲む。さて朝飯。朝飯といっても昨日の昼からなにも食っていないのでノリは夕飯のノリだ。がっちり食べたい。ということでとりあえず肉を焼く。豚バラをポン酢で焼いただけのでいいかなと思ったけど、玉子があったので路線変更。ネギを刻み、チンゲンサイ的な野菜を千切る。オリーブオイルで肉を焼いてある程度火が通ったら野菜投入。そして玉子を入れてぐちゃまぜ。味付けは塩胡椒とほんの少しのウスターソース。思いつきで作った割にはうまい。
さておかずは出来た。あとは米だ。ジャーの中の米を確認することを忘れていた。米がなかったら早くて四十分は待ちぼうけだ。パカり。よかった。米はある。冷や飯。猫舌だからチンはしない。だがいかんせんこの季節この暑さ。ご飯の匂いは否応なしに僕の食欲を減退させる。おかわりしたけど。
小山さんはようやく太ももを動かした。おそらくブレーキペダルの何倍もある足。踏みつぶされるペダル。ハンドブレーキを器用に外して軽自動車は発進した。バックミラー越しに見る公園は段々ぼんやりと、小さく、他の景色に吸い込まれて見えなくなって消えた。僕や小山さんや彼女や彼女の家族にとって一生忘れられない公園。どうでもいい人達に忘れられていく公園。いずれ奇異な視点からも記憶からも消えていく。花も置かれていないもの。
来客中。家に例の社長が来ていた。小山さんは僕を降ろすと、「じゃあよろしく伝えといて」と言って去って行った。僕のことに気づいた社長は作り笑顔をして僕に手を振った。ちょっと少し前、助手席のドアを閉めるまで、運命の別れ道、大一番、まるで真空の中にいたみたいな時間を過ごした僕はさっさと部屋に行っていつもの空気を吸いたいのだが、僕も、どちらかと言えば苦笑いに近い、笑顔をつくって応える。
「おぉ、健一、おつかれさん」
社長にそう言われた瞬間、急にくたびれた。
「いや、どうも」
「健一ぃ」
あぁ、仕事の話だ。社長が僕の名前を少し伸ばして言う時は仕事の話だと決まっている。今の気分ではとてもじゃないけど仕事なんかしたくない。元々仕事をしたくないからニートなのだが、とにかく、今、そんな話はしたくない。たった今、僕は僕の運命を持ち帰って来たばかりなのだから。だけど当然社長は続ける。
「明日から仕事があるんだけどさ」
「はぁ」
この気の抜けた僕の返事で交渉は決まったも同然だ。断らない自分。もう断れない自分。嫌悪する。
「手紙を配る仕事なんだけど、今回はポストに入れるだけのね。判子とかはもらわなくていい。どうだい?」
どうだい?と聞かれても、社長の中ではもう僕は戦力として計算されているんだろ。
「はぁ、大丈夫です」
この言葉しか出ないのだ。いや、僕はいつもこの言葉しか出せない。情けないとは思うけど、かなり死にたくなる。なら断ればいいのにね。
「おう、じゃあ明日、ま、明日中に配りきらなきゃいけないってもんじゃないから午前中に来てくれればいいよ。多分二、三日かかると思う。一応自転車は用意してあるけど」
「いや、チャリンコで行きますから」
「うん、わかった。じゃあ明日、よろしく。ではでは用件も済んだことですし」
別れの挨拶を済ますと、すぐさま部屋に戻りベッドに横たわる。明日の事を考えると絶望的な気持ちになる。うん。死にたい。日本が銃社会で手軽に銃が買えたなら僕はとっくに自殺していることだろう。僕の自殺はいつもそう。だろうだろうで、とても飛び降りなんて出来やしない。以前、よっしゃあ!家中の薬を飲みまくってやる!って意気揚々と手当たり次第に飲みまくったことがあるけど、それぐらい。本当に死ぬ気があったのか疑問だ。うちに睡眠薬ないし。どうせ死なない、なんて計算してたに違いない。そしてその通りにただ少し寝て、猛烈な吐き気に襲われて吐いて、やけに口の中が乾いて、胃がムカムカして、そんな程度だった。まあ半分は優しさで出来ているものや、胃に優しい胃薬とか、関節の炎症を抑える薬じゃこんなもんだろう。あ、アレルギーの薬もあったな………はは…。
道助のことを考えているうちに眠ってしまった。そういや昨日寝てなかった。気が付いたら午前4時。もう無理矢理にも眠れない。寝過ぎて頭痛い。軽い頭痛がしていることを除けば体は至って元気で、食事を取るように促す。牛乳を飲み、頭痛薬を飲む。さて朝飯。朝飯といっても昨日の昼からなにも食っていないのでノリは夕飯のノリだ。がっちり食べたい。ということでとりあえず肉を焼く。豚バラをポン酢で焼いただけのでいいかなと思ったけど、玉子があったので路線変更。ネギを刻み、チンゲンサイ的な野菜を千切る。オリーブオイルで肉を焼いてある程度火が通ったら野菜投入。そして玉子を入れてぐちゃまぜ。味付けは塩胡椒とほんの少しのウスターソース。思いつきで作った割にはうまい。
さておかずは出来た。あとは米だ。ジャーの中の米を確認することを忘れていた。米がなかったら早くて四十分は待ちぼうけだ。パカり。よかった。米はある。冷や飯。猫舌だからチンはしない。だがいかんせんこの季節この暑さ。ご飯の匂いは否応なしに僕の食欲を減退させる。おかわりしたけど。