読んだら損する「運命はテイクアウト」(24) | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

読んだら損する「運命はテイクアウト」(24)

「いや、ごめんね、ちょっと待ってて」
そう言って小山さんは軽自動車から蛇腹を伸ばすように這い出た。後ろに回りトランクを開ける。トランクが、バン、と大きな音を立てて閉じられるとバックミラー越しに小山さんが花束を持っているのが見えた。距離感と小山さんのでかい体のせいで、いまいち花束の大きさがわからない。多分かすみ草とひまわり。
小山さんは律儀に、少し遠回りして入口から公園に入ると、ドーナツトンネルの中へと入っていった。何もない、まっさらな薄闇。子供連れの母親達が何組か公園内に居る、といっても居るのはドーナツからは大分離れた、公園をヒラメにたとえるとエンガワの部分なのだが、そのうちのある母親は小山さんを見て露骨にギョッとした顔をして子供を呼んだ。殺人事件、巨漢、花束。驚き、警戒するのもしようがあるまいし当然だ。しかしあの顔、ギャグ漫画の誇張を誇張ではなくしてしまう勢いのギョッ顔。なかなかいいものを見た気がする。
一分程で小山さんは穴の中から出てきた。少し驚いたことに、小山さんは花束を持って帰ってきた。まあなんとなく理由はわかるが。
小山さんは花束をトランクにしまうと蛇腹を折りたたむように車へ。ドア側一杯に体を寄せる僕。
「あの、お見ま……あの、ご苦労様です」
「ははは、いや気を使わせて悪いね。たまにこうするんだ」
小山さんは、“何て言ったらいいかわからない様子の僕”に笑いかけた。僕はもう一言一句集中するモードに入ってる。
「花束…交換してきたんですか?」
そう、素直に。出来るだけ引かない。
「いや、置かなかっただけだよ。公園だからね、花束が置いてあったら気味悪いだろう?家族の方がそう決めたのだけどね」
「ああ、なるほど」
大体僕の想像通りの理由。とりあえず会話終了。ここは所謂気まずい空気が漂うのが普通だ。後は家までの気まずいドライブ、今の僕にとっては気楽なドライブを楽しむ、いや、するだけだ。
しかし、なかなか小山さんは車を発進させない。発進させるつもりがないらしい。それは空気を通してひしひしと僕に伝わってくる。ということは何かをするなり言うなりするつもりだろう。イメージトレーニングを思い出せ。表情には出さずに集中力を高める。
「健一君が、一昨日だったかな」
きたよ、きた…。
「この公園を通った時もこうしていたんだよ。といっても、あの時は彼女の家から公園を見ていたのだけどね。車も家の近くに停めていたから健一君は気付かなかったのかな」
「はぁ、まあ見かければ気付いていたかもしれませんね」
僕があの時あなたに気付かなかったのがなんなのだ!くそっ。普通にしろ。いちいち感情の起伏を感じるな。平坦に。ただの世間話。自分とは関係ない世界の世間話。適当な相槌を打つだけでいい。
「ほら、あそこだよ。あの団地の三階の右から二番目…」
小山さんが指した場所に目を向けると、ベランダに学校指定のジャージがかかっていた。
「はぁ、あの、ジャージが」
「そう。あれは多分妹さんのだね。一昨日あそこから公園を見ていたら健一君が通ったんだよ」
僕は間髪を入れず、
「ああ、あそこは視界に入りませんでしたね、見られていたとは気付きませんでした」
と、言った。
「見られていた、とは人聞きが悪いね、はは」
小山さんの目は笑い声に反して虚無のような、少しどんよりした目をしている。うん、いい感じ。あえて仕掛ける。あえて引っかかる。だからこそ疑いが晴れる。
「え、いやいや、そんな。小山さんも見かけたなら声を…って、う、あ、すいません。そんな気分じゃなかったですよね」
僕は少しだけ頭を下げる仕草をした。一瞬、「やりすぎかな」と、思ったが、すぐに、「このままやり通そう」と、思った。
「ははは、確かに声を張る気分じゃなかったね。…実は、僕がたまに…いや、ほぼ毎日、かな、僕がここに来るのはね、ひょっとしたら犯人がここに戻って来るんじゃないかと思ってね」