読んだら損する「運命はテイクアウト」(21) | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

読んだら損する「運命はテイクアウト」(21)

「明日は暇かい?」
えっ、マジかよ…。明日?何だ?脳の回転数が時間を超える働きをする。明日は暇だ。というか大概いつも暇だ。当然小山さんもそのことを知っている。明日暇か?と、聞かれたなら当然明日僕に用事があるということ。断るか。「友達と遊ぶ」、断るならこの理由しかない。いや、どうだろう。断ったなら、「じゃあ今からいいかな?」、なんて言われかねない。今からは断りづらい。きっとそのまま小山さんに連れてかれる。それが自然で普通の、いつもの僕だ。
小山さんとはなるべく会いたくない。会わない方がいい。犯人と被害者、しかし傾向と対策。どうせ会わなければならないならば、明日という明確な時間が決まっている方がいい。不意打ちにさえ気をつければ。心の整理、準備、対策さえ決めていけば。
「明日ですか?暇ですけど」
質問からほぼ間髪を入れずに答えた。と、思う。
「そうかい。断られると思ったけど、あ、いや、ごほん」
嫌らしい。しかし僕とてなかなかのものだ。「はあ?」というような顔をする。
「はは、いやぁ、明日は日曜だからね、彼女とデートでもするのかななんて思っていてね」
この際小山さんが本気でそう思っていたのかどうかなんて関係ない。今はただ単純に、普通に、応える。それが一番だ。
「残念ながらいませんから、彼女。小山さんこそ大丈夫なんですか?」
「ははは、いやいや、ごめんごめん。で、明日のことなんだけど」
こりゃチャンスだ。傾向と対策その2。
「たーくんの部屋を整理していたらノートが見つけてね。日記みたいなものだよ。それを見てもらいたいんだ。大丈夫かい?」
「………日記ですか?」
意外な展開だ。まあそんなこともどうでもいい。来た球を打つだけだ。
「そうなんだ」
「うーん、正直あまり見たくはありませんけど、うーん、まあしょうがないですね。わかりました」
本当に日記みたいなものがあるのなら本当にあまり見たくない。道助のことはあまり知りたくない。親友と呼べる友達だけど、だからこそ。
「そうかい。いや実はそのノートがまたなんともいえないもので、まだおじさん達にも見せてないんだけどね。たーくんの、その、エロ関係を処分しようと探してたら、エロ本の中にあったんだ。昨日本やDVDを密かに持ち帰ったら、って僕が楽しむわけじゃないよ、はは、まあ処分しようとしたら見つけたんだ。あんなもんの中にあったものだからおじさん達に見られたくないものなんだろうなと思ってね。で、健一君に相談しようと思ってね。ノートをどうするかをさ。一応僕もパラパラめくりはしたけど、内容はよく見てないんだけどね」
小山さんは少し恥ずかしそう。
「エロの中に…ですか?なんでまたそんなところに」
「ははは、ね。だからこそ健一君に確かめてもらいたいんだ。これは親族が見ていいものなのかどうかをね。知らぬが仏ということもあるからね」
「ああ、なるほど」
素直にそう思った。
「わかりました。まったく、どうせ死ぬならそういうのはちゃんと処分しろよって話ですね。しょうがねえなぁ」
「ははは、まったくだ。どうやら行動自体は計画性の無い突発的なものだったらしい。いや、そんなことはもういいんだ。では明日、そうだな、三時頃でいいかな?家に迎えに行くよ」
「あ、はい、大丈夫です」
やり取りが終わり、最初の目的通り外に出る。まだ顔が微笑のままだ。外向けの顔。嫌いな顔。表情と違い胸からは不安がいまにも飛び出して、月に向かってちんこみたく怒張するんじゃないかってぐらいで、気持ち悪くてたまらない。
なんでもいいけど蹴飛ばして、ロングシュート決めたい。だけどそんなことはしない。今も僕の一挙手一投足を誰かに、小山さんに見られている気がしてならない。花壇の縁に座ってタバコをふかしかなかった。ふと空を見上げれば、一等星がまばらに輝く空、月が今日もまたまん丸に嘶いてる。月の鳴き声はいつもメェに違いない。エアコンの室外機からゴーゴーと音を立てて吹き出る温風が熱帯夜を予感させている。きっと今年もたくさんの老人が暑さの中孤独死していくのだろう。暑さに比べれば僕のしたことなんて………………?
胃の内容物がこみ上げてきた。なんとか喉で留める。どうしようもない異物感は僕をバカな考えから解き放つのに充分だった。