読んだら損する「運命はテイクアウト」(15) | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

読んだら損する「運命はテイクアウト」(15)

「えぇ、ですから、さすまたはあくまで威嚇や距離をとることに使って、やっぱり相手がさすまたを持っていると犯人もたじろぐと思います。ですからその隙にこの催涙スプレーでシューっと」
口から出任せ。だが間違っちゃいないだろう。そもそも防犯目的として、さすまたを配っとけばいいだろう、ということがお役所仕事というかなんというか。
「詳しくは後で講習会のお知らせが届くので、はい。では、失礼します」
どこの幼稚園も反応は同じ。夕方近くになり、ギリギリ全てを配り終わった。会社に戻り、お疲れ、ってことでペダルを漕ぐ。漕ぐ。漕ぐ。ふと、仕事中彼女のことを考えていなかったことに気付く。良いことだ。しかし、その反動だろうか、今考えてしまう。もうどうしようもない。またペダルを漕ぐという単純運動が思考をかき回すんだこれが。もう止められそうにない。
無性にあの現場に行きたい。危険だ。なんらかの犯人が現場に戻ってくることなんて子供でも知っていることだ。だけど止められそうにないんだ。やっぱり体を支配しているのは脳みその中にいる妖精みたいな虫だからね。うわ、また妖精みたいな虫出てきたよ…。
なんてことはない。ただの公園だった。花でも供えられているかと思っていたのだが、公園の真ん中ということもあってか、それはなかった。黄色いテープも無い。なんちゃないじゃない。
公園を通り過ぎ去ろうとした時、突然恐怖に襲われた。周りを見ても誰もいない。時刻は夕方、紫色の空。老婆でも出てきそうな雰囲気だ。怖い。怖い。後ろを振り返ると老婆の代わりにあのドーナツトンネルが口を開けている。フワァフワァ。なんか吐き出している?異空間?亜空間?呪い。怨念。復讐。憎悪。報い。頭の中で乱反射するみたく言葉が乱反射する、って乱反射しまくりだろ。混乱。パニック。…………。急いで人通りの多い路に出る。この道には老婆がいるが、なんてことはない、文字通りそこいらの婆さんだ。
考えないようにしよう。しばらく考えないようにしよう。それには思考の生け贄が必要だ。僕の脳内に住む妖精みたいな虫は今日会ったある保母さんのことを見つけ出して来た。ナイス妖精みたいな虫。
歳は僕と同じくらいだろう。綺麗とは言えないが可愛らしくて、明るさが服着て歩いているような娘。武闘派保母さんについでこの娘もまた僕とさすまたで力比べした娘だ。この時僕はさすまたの無力さを改めて痛感した。本日二戦目。武闘派保母さんのおかげで少しさすまたスキルが上がった僕。小柄な、武闘派保母さんに比べたら容積は半分くらいじゃないかと思う彼女。楽勝!僕はもう余裕のよっちゃんイカ食べた状態だ。が、しかし、危なかった。彼女の猛烈なスタートダッシュの瞬発力は僕のさすまたを浮かせ、僕が本気になってやや乱暴に押さえつけなければ抜け出されるところだった。現実には逆なのだ。僕が犯人で保母さんが保母さんなのだ?当たり前か。当然力の差が逆転するわけで、はっきり言って僕は保母さんが操るさすまたと催涙スプレーで撃退されない自信があるし、後のことさえ考えなければなんらかの目的を達成するだろう。なんとかしようぜ行政。ピストル的な飛び道具が必要だ。決して幼児の手の届かない場所に、箱かなんかに入れて開けたら自動的に警察に連絡が行くようになっていて。もちろん盗難防止にピストルにはGPSが付いている。このぐら
いの装備は必要だ。いやマジで。ピストルを取られて犯人に利用されたら、なんてこともあるだろうが、なに、やらなきゃやられる状態ってのはあるわけで。その結果利用されてやられてもしょうがないだろう。憎むべきは犯人だ。道具じゃない。僕みたいな凶悪犯だ。…………。しかし、さすまた対決が終わってからの彼女の苦笑いは可愛かったなぁ。それ見て僕も苦笑いしたんだ。彼女は可愛いし生きてるけどもう二度と会うことないんだろうな。なんとなくそう思った。