読んだら損する「運命はテイクアウト」(13) | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

読んだら損する「運命はテイクアウト」(13)

お客さん、知人、後輩、大学のサークル、ヤバい、何が、まさか小山さんの知り合いとは、僕には関係ないだろ、いや関係あるかな、こんな形で繋がるとは、繋がる?、殺人と小山さんと彼女と僕が?繋がってはいないだろう、僕の演技、大丈夫だったか、問題ない、母親も小山さんも、誰も目の前に犯人がいるとは思わない、小山さんは彼女が好きだったんじゃないか?、綺麗だったからなぁ、いやいやどうでもいい、今はそんなことどうでも、どうする、どうするんだ、逃げ出す?、まさか、そんなことしたら自首したことと同義だ、自首する?、自首するくらいなら殺人なんてやってない…だろ、やり過ごす、やり過ごすんだ、やり過ごすぜベイベー、いつまで、一生?、一生かよ、面倒くさいな、いや強くなるんだ、大丈夫、きっと大丈夫、わかりゃしないんだ、知っているのは僕と彼女だけ、秘密、僕がゲロしなけりゃ、彼女はもう吐きたくても吐けないのだから、安心、安心しろ、そうだ、安心するんだ、僕は安心すればいいのだ、安心……………。
歩き疲れた体、早起き、ベッドに預けた体、自然と眠気に見舞われた僕はそれに任せて寝た。大丈夫、大丈夫、図太く、強く。ぐぅぐぅ。
体が汗でぐしょぐしょだ。夕方五時。まだ陽の残る時間だというのにやけに暗い。ああそうか。暴風雨明けたのか。怖い。この時間帯が一番怖いことを僕は知ってる。小学生の頃聞いた都市伝説。夕方、窓の外に老婆が立っていて目が合うとあの世に連れてかれるというもの。日本中どこにでも似たような話があるはずだ。あれを聞いたから怖いのかも知れない。この話の時刻設定が夕方であることを考えると、どうやら多くの人にとって夕方はなにか含むものがあるらしい。みんな夕方が怖いと感じているはずだ。闇を照らす陽が沈み闇を連れて夜がやってくる、放課後、誰もいない教室、友達と別れたあとの寂しさ、夕方にはそんな体験があるからだろうか。しかし老婆というのはどうだろうか。老婆は未来だ。それがなんだ、若い奴にとって老婆というのは未来ではなく異次元の生き物、いや、生き物ですらない存在になるのだから。まったく。都市伝説だかなんだかしらんが老婆老婆と言ってくれるな!だけどまあうちのばあちゃんも少し怖…。その時、
とんとん、ノックノック。
全身の血が逆流するほどびびる。しぃーと体の奥から音が聞こえる。
きぃ。部屋のドアが開く。
「健一」
老婆だ!うわあぁ!いや違う。おばあちゃんだった。…確かに不意の老婆は怖い。
「本を売りに行きたいのよぉ。でも重くて重くて。健一悪いけどちょっと付き合ってちょうだい」
ばっちり目があったがあの世に連れて行かれることはないらしい。「わかった」断る選択肢など最初から持っていない。ニートだし。
「徳川家康」全26巻山岡荘八。僕がちっちゃい頃死んだじいさまの本、だと思う。
「若い頃は五、六回読んだんだけど、もう読まないから、目が悪くて読めないから売っちゃおうと思って。ほら、駅前に古本屋が出来ただろ?」
知ってる。全国チェーンの新古書店。僕の脳細胞はすぐに、買い取り不可、の文字をでっかく脳内プロジェクターで再生、上映。保存状態が悪すぎる。本の背を手にとってぱらぱらと振れば本文がばっさり落ちてしまうだろう。せめて神保町にあるような古書店ならどうにかなるかもわからない。まあそれでも難しいだろうけど。本の日焼けした帯に一億部突破と書かれているから。もし売れたとしても新古書店なら全部で100円ぐらいではなかろうか。
それでも僕は本をビニール紐で縛り、おばあちゃんと一緒に店に向かった。一度やると決めたらやらずにはいられない性格。この気持ちはよくわかる。僕にも受け継がれたみたいだからだ。そうなるともう、行く行かない、売れる売れない、で議論するより実際行ってしまった方が遥かにスマートなのだ。
そして案の定、売れなかった。