読んだら損する「運命はテイクアウト」(12) | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

読んだら損する「運命はテイクアウト」(12)

「いやぁ、…今月程保険屋をやっていて嫌になったことはありませんよ……」
ちらりと小山さんは僕に目をやる。その目は、しまった、という感情に満ちていた。僕は、どうぞ、と、目で返す。
「あの、たーくん、道助のこともそうなんですが…昨日殺人事件ありましたよね、はい、あの公園の…。あの娘、僕の担当している家の娘なんですよ…」
母の何気ない言葉、「お昼うちで食べてったら?」「どうしたの?元気ないわね」がまさか僕をこんなにどぎまぎさせるとは思わなかった。
何も反応しないのは逆に怪しい、と思って、僕は思いきって驚いた顔をした。そっちの方が自然だろう。
重い空気。小山さんは淡々と、もちろんこちらに気を使って、語り続ける。おそらく誰かに吐き出さなければ自分が駄目になってしまうような気持ちなのだろう。
「その娘は僕の大学の後輩ということもあって」
初め隠していたであろうインフォメーションがちらちら。
「ご家族の方達とも仲良くさせてもらっていたのですが…えぇ、直接の…同じサークルでした。今日伺うつもりなんですが、まあもちろん今日保険の話をするつもりはありませんが、後々のことを考えると…どうにも気が重くなりましてね。それに…」
小山さんはまた僕に目をやった。その目の意味はもう光の速度で理解したが、わざと「えっ!?」という風な目をした。
「彼女が、知美ちゃんが殺された時間に、僕は近くに居たんですよ。近くといってももちろん現場ではありませんし、1、2キロは離れていたかもしれませんが。しかしそれを、さらに…」
僕の理解力は正しい答えを導き出していた。ここで引いてはいけない。
「それって、あの後のことです…よね?」
こう聞くのが自然だと思った。
「ああ、いや、悪いね。うん、そうなんだ。健一君と別れた後のことなんだよ。あの喫茶店の近くで事件が起こった、まあこれも近くっていっても、そうだなぁ、歩いたら十分ぐらいはかかるんじゃないかと思う場所だけどね」
嫌な言い方をする…まるで僕が犯行可能だと言ってるみたいじゃないか。まさか僕を疑っているのか?って推理小説の名探偵じゃあるまいし、ましてやスーパー高校生でもないし、ましてやましてやスーパー高校生の頭脳を持ったまま子供になったわけじゃなし。あり得ない。考え過ぎだ。
「あそこの辺りだったんですかあれは…」
「いやいや気を悪くしたらごめんね」
何故、僕が、気を悪くしなきゃならないのだ?小山よ。
「ああいえ、とんでもない」
僕と小山さんの会話が終わると、母親が小山さんを慰め始めた。母親はワイドショーを砂かぶりで観ているようなもんだ。
「悪いのは犯人よ。あなたが悪いわけじゃないんだから。ちゃんとしていればいいんじゃないかしら。友達としても保険屋さんとしても」
母親の言葉に不意をつかれた僕は、びくっ、と体を動かしてしまった。幸い母親も小山さんも僕のことを見ていなかった。
「いやぁ、なんだか楽になりましたよ。軽くなったというべきか…。いやぁ、今日はご馳走になって、相談にも乗ってもらって、いやぁすいませんでした」
「とんでもない。ご飯ぐらいだったらいつでもいいのよ」
「いやいやありがとうございます。では、失礼しま…っと、大事なことを忘れていました」
小山さんは小さなカバン、小山さんが持てば大体のものが小さくなる、から書類をとりだした。
「これが、今回更新させていただいた商品の説明書です。特約が多いので何かあった時は確認していただくと得をするかもしれません。あと、自動車保険も更新が近いのですが、どうしましょうか」
「ふふ、更新でいいわよ。またいつでもいらっしゃい」
小山さんはいつも通り体を小さく折りたたんで軽自動車に乗り込んでいった。窓越しにぺこりと頭を下げる小山さんに応じて僕も頭を下げる。小山さんが去り、部屋に戻ると、今まで押し殺していた感情が爆発する。