読んだら損する「運命はテイクアウト」(10) | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

読んだら損する「運命はテイクアウト」(10)

少し冷静になった僕の頭の中にいる妖精っぽい昆虫が脳のシワの奥からある情報を引き出した。昆虫というからには腹から六本の脚が生えているのだろう。ええい、そんなことはどうでもいい、情報だ情報。
「快楽殺人犯は捕まりにくい」
ただしこの情報は多分に希望的観測が含まれている。確かに快楽殺人犯のほとんどは目をつけたなら最後、縁もゆかりもない人物を襲う。よって被害者の人間関係からの捜査線上に犯人は浮かばない。捜査は次の被害者を待ち、犯行の共通点を見つけ犯人像をプロファイリングして犯人を探す。だから快楽殺人犯の連続殺人の場合被害者が一人二人なら捕まえようがないのだ。まあ僕は快楽殺人犯ではない、と思うのだが。しかし多分に希望的観測が含まれていると言ったように、証拠さえ残さなければ、の話だ。当然捜査は人間関係にとどまることはない。あの公園で僕の髪の毛一本でも見つかれば、僕の性別と年齢、血液型、また髪の毛の長さによって僕がニートであることは推測されるだろうし、足跡が特定されればおおよその体格はわかるだろう。あとはアリバイか。これはまあ後の話。
しかしまあこれらの点は、希望的観測によるところが非常に大きいが、大丈夫だろう。まず髪の毛は、少なくとも彼女の体にはくっついていないだろう。くっついていなければ見つかりはしまい。また彼女の長い黒髪は僕の長髪を隠す蓑になってくれる。足跡だって、仮に特定されてもなんだというのだ。僕の靴はサンダルだった。しかもそこいらに売ってるサンダルだ。第一、公園なのだ、不特定多数の人が行き来する公園なのだ。まああの時は誰もいなかったけど…。あの時間に誰も遊んでいないようなしみったれた公園だけど彼女みたく通路として利用する人達だっているはずだ。なにより僕は今までに警察の厄介になったことはない。目撃証言さえなければ僕を探すのは容易ではないはずだ。そしておそらくは僕の犯行を目撃した者はいない、はず。逃げ出してから悲鳴や怒号は聴こえなかったから。仮にプロファイリングの結果ルサンチマンなニートの若い男性の犯行によるものと断定されても、僕の街は田舎じゃない。僕みたいな奴はここいらにだってたくさんいる。範囲を東京に広めれば更に倍。ドーン。しかも僕は、厳密に言うとあの公園の地元じゃあない。駅にして二つぐ
らいある離れた場所だ。
「なにもしなければいい。なにも」
僕はいつも通り部屋に居ればいい。目立たなければいい。このままでいい。突然髪を切ったりしたら駄目だ。普段通りに、このままで。見つかるわけなんかないのだ。警察が僕に目をつけるわけないのだ。ただまた脳内の虫が脳内をシワに入っていった。あれよく見ると脚が八本あるな、ていうことは蜘蛛?または一部のカニ?それはやだなぁ。ってええい、そんなことどうでもいいのだ。その、なんだ蜘蛛的なやつが見つけてきた情報。それは最終的に快楽殺人犯は捕まっているという、どうしようもないほど当たり前な情報。そりゃそうだ。捕まったから快楽殺人犯についての情報があるわけで、日本でニートしている僕にも本とかで知り得たわけだ。まあしかしあいつらは何人も何十人も殺した末に捕まっている。しかも大概ガキの頃に性犯罪を犯してる。または、こんなことあまり言いたくないが、外から見て明らかに複雑な家庭の場合が多い。僕はさっき言ったように今までに警察の厄介になったことはないし、少なくとも外面は良い家庭なはずだ。それに快楽殺人犯、連続殺人犯でも逃げおおせた奴はいる。切り裂きジャックは捕まってないし、ゾディアックも捕まってない。捕
まるといっても、捕まった奴ってのは犯行を重ね、重ねるにつれ犯行が雑になったり大胆になったりしたからだ。やはり目撃者さえいなければ、僕が捕まるはずは無い。まず無い、はず、なんだ。
いわゆるゴールデンタイム。テレビはバラエティーとドラマの時間。NHKの存在を思い出してチャンネルをかえる。NHKは裏切ることなくニュースタイム。しばらく垂れ流しているとあのニュースを伝え始めた。