読んだら損する「運命はテイクアウト」(7)
交差点。曲がる。四回目。僕はアリバイのことを考え始めた。我が身かわいさにもほどがあると思うけど。捕まりたくない、心の奥からふつふつとそんな感情がわいてくるんだからしようがない。
コンビニに寄ろうか、いや、今から時間を残しても意味がない。意味がないどころかわざわざ捜査の手掛かりを作るようなもんだ。真っ直ぐ家に帰るんだ。あの喫茶店から家までは、幸いにして、そこそこ距離がある。およそ5キロぐらいだろうか。僕はニート生活であまりに暇な時やたらめったらに散歩してる時期があったのでここいらの距離と時間の関係はよく知ってる。ここいらの住人、少なくとも家族は、あまり歩かない。電車や車で移動することがほとんどだ。だから少し離れた場所に徒歩で何分でいけるか、多分かなり多目に見積もっている。例えば今いる場所はうちから5キロ程離れているが、うちから5キロの同心円状の場所に荒川を渡る橋がある。橋で待ち合わせがあり、歩いて行くとなったら、下手したら二時間前、少なくとも一時間半前には家を出るだろう。しかし、所詮は5キロなのだ。実際には僕の足で四十分から五十分ぐらいしかかからない。結構な誤差がある。十分二十分なんて誤差の範囲だ。小山さんと別れた時間からうちに着いた時の時間がいつもより、その「いつも」がうちでは僕しかわからないのだが、少し遅れたところで誰もなにも思わない。なん
なら物思いに、道助のことを考えながら、ふらふらとぼとぼ歩いていたことにすればいい。おそらく、完璧だ。
鳥肌が消えないまま歩く。街は、町は、日常の中にあり、たくさんの車が排ガスを垂れ流して力強く走ってる。僕も普段通り歩いているのだ。交番の前だって歩く。いつもの様に。
彼女にはもう永遠に日常はやってこないのだな、ふとそう思うと、鳥肌が力を増し、某国民的アニメ会社の感情表現みたくすね毛が逆立つ。「毛って本当に逆立つんだな、すね毛だけど」そう思いながら歩く。歩く。
家が見える。うちだ。いつもより大きく小さく見える。言葉が矛盾しているけど、実際なんだかよくわからないけど大きく小さく見えるのだから大きく小さく見えるとしか言えない。
「おかえり、小山君から連絡あったよ」
母親が僕を出迎える。
「そう」
僕はいつも通り応える。
「あら、手から血が出てるわよ」
「えっ」
汗が体の内側からわき上がる。手を見ると、ほんの少しだけ、あなたが噛んだ小指が痛い、もとい彼女が噛んだ指の根元から血が出ている。ほんの少し。僕の体が色白だからかろうじて目立つ程度。ニキビを潰した時より少ない。
「なんでだろ」
とりあえずそう応えた。冷静な判断だと思う。そして無造作にティッシュで血をぬぐう。血をぬぐう程血は出ていないのだが。ゴミ箱へと投げたティッシュは見事ホールインワンしたのだがあまり気分はよくならない。
階段を、気がつけばいつもよりゆっくりと、上がる。まあ歩いてきて疲れているということで辻褄は合う。部屋に入る。万年床のベッド。散らかり放題の様。テレビに集まった埃。いつもの僕の部屋。今日、母親に起こされたままの部屋。僕も同じ恰好。
くたくたになっている枕を殴る。
ぽすぽすぽすぽす。
力一杯殴っているのに枕は情けない音をたてるだけで、
「人間だったら血がでるんだぜ」
そうつぶやくと、無性に怖くなった。枕を布団でくるみ、封印した。
「大丈夫だ。誰も見ていない。誰もいやしなかった。声も聞こえなかった。彼女の声も。目撃者の声も。聴いた声はただひとつ。死んだな………俺は一体…俺は殺人者だ。殺人犯だ。殺人鬼だ。そうだ。そうだよ。俺は殺人者になったんだ。見ず知らずの女を殺した殺人鬼だ」
はっとして僕はテレビを点けた。時計を見る。あれから大体一時間半。時刻は五時。
「さて、本日の商品はこちら!布団圧縮袋DXセットです!なんとあの大変ご好評頂いた布団圧縮袋ハッスルセットに、さらにさらに、さ、ら、に!パワーアップしたこの……………」
確かうちはハッスルセットの一個前のセットを買った。ふざけるな。チャンネルをかえる。ちょうどニュースが始まる時間。なるほど番組は今日のトップニュースを一様に流している。
コンビニに寄ろうか、いや、今から時間を残しても意味がない。意味がないどころかわざわざ捜査の手掛かりを作るようなもんだ。真っ直ぐ家に帰るんだ。あの喫茶店から家までは、幸いにして、そこそこ距離がある。およそ5キロぐらいだろうか。僕はニート生活であまりに暇な時やたらめったらに散歩してる時期があったのでここいらの距離と時間の関係はよく知ってる。ここいらの住人、少なくとも家族は、あまり歩かない。電車や車で移動することがほとんどだ。だから少し離れた場所に徒歩で何分でいけるか、多分かなり多目に見積もっている。例えば今いる場所はうちから5キロ程離れているが、うちから5キロの同心円状の場所に荒川を渡る橋がある。橋で待ち合わせがあり、歩いて行くとなったら、下手したら二時間前、少なくとも一時間半前には家を出るだろう。しかし、所詮は5キロなのだ。実際には僕の足で四十分から五十分ぐらいしかかからない。結構な誤差がある。十分二十分なんて誤差の範囲だ。小山さんと別れた時間からうちに着いた時の時間がいつもより、その「いつも」がうちでは僕しかわからないのだが、少し遅れたところで誰もなにも思わない。なん
なら物思いに、道助のことを考えながら、ふらふらとぼとぼ歩いていたことにすればいい。おそらく、完璧だ。
鳥肌が消えないまま歩く。街は、町は、日常の中にあり、たくさんの車が排ガスを垂れ流して力強く走ってる。僕も普段通り歩いているのだ。交番の前だって歩く。いつもの様に。
彼女にはもう永遠に日常はやってこないのだな、ふとそう思うと、鳥肌が力を増し、某国民的アニメ会社の感情表現みたくすね毛が逆立つ。「毛って本当に逆立つんだな、すね毛だけど」そう思いながら歩く。歩く。
家が見える。うちだ。いつもより大きく小さく見える。言葉が矛盾しているけど、実際なんだかよくわからないけど大きく小さく見えるのだから大きく小さく見えるとしか言えない。
「おかえり、小山君から連絡あったよ」
母親が僕を出迎える。
「そう」
僕はいつも通り応える。
「あら、手から血が出てるわよ」
「えっ」
汗が体の内側からわき上がる。手を見ると、ほんの少しだけ、あなたが噛んだ小指が痛い、もとい彼女が噛んだ指の根元から血が出ている。ほんの少し。僕の体が色白だからかろうじて目立つ程度。ニキビを潰した時より少ない。
「なんでだろ」
とりあえずそう応えた。冷静な判断だと思う。そして無造作にティッシュで血をぬぐう。血をぬぐう程血は出ていないのだが。ゴミ箱へと投げたティッシュは見事ホールインワンしたのだがあまり気分はよくならない。
階段を、気がつけばいつもよりゆっくりと、上がる。まあ歩いてきて疲れているということで辻褄は合う。部屋に入る。万年床のベッド。散らかり放題の様。テレビに集まった埃。いつもの僕の部屋。今日、母親に起こされたままの部屋。僕も同じ恰好。
くたくたになっている枕を殴る。
ぽすぽすぽすぽす。
力一杯殴っているのに枕は情けない音をたてるだけで、
「人間だったら血がでるんだぜ」
そうつぶやくと、無性に怖くなった。枕を布団でくるみ、封印した。
「大丈夫だ。誰も見ていない。誰もいやしなかった。声も聞こえなかった。彼女の声も。目撃者の声も。聴いた声はただひとつ。死んだな………俺は一体…俺は殺人者だ。殺人犯だ。殺人鬼だ。そうだ。そうだよ。俺は殺人者になったんだ。見ず知らずの女を殺した殺人鬼だ」
はっとして僕はテレビを点けた。時計を見る。あれから大体一時間半。時刻は五時。
「さて、本日の商品はこちら!布団圧縮袋DXセットです!なんとあの大変ご好評頂いた布団圧縮袋ハッスルセットに、さらにさらに、さ、ら、に!パワーアップしたこの……………」
確かうちはハッスルセットの一個前のセットを買った。ふざけるな。チャンネルをかえる。ちょうどニュースが始まる時間。なるほど番組は今日のトップニュースを一様に流している。