読んだら損する「運命はテイクアウト」(5) | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

読んだら損する「運命はテイクアウト」(5)

久しぶりに連絡をとったこと、昼飯を食ったこと、道助が妙に元気だったこと、半ば強引に屋根に上らされたこと、そして道助が飛んだこと。僕が背中を押したことはやはり割愛した。押したと行っても突き落としたわけでもはないし、きっかけだったかもしれないが要因ではない。自殺。タナトス。関係ない。でも心の中で何度も何度も、
「自分の身を守りたいだけだろ」
と、思った。ぐるぐる回るよ、自意識は回る。
「君も大変だったね。心中お察しするよ。といっても、君の苦悩は僕になんかわからないほどだろう」
小山さんは僕の目をしっかり見て言った、後ろめたさバリバリの僕は目をそらした。
「さぁ、そろそろ行こうか。悪かったね。…たーくんも最期に健一君と会っておきたかった…ただそれだけなんだろうね。僕が言うのもなんだけど、健一君は少しも落ち込んだりすることはないと思うよ。僕になにがわかるんだ、そう思われても仕方ないけどね」
「いえ、そんなことは」
一応そう応えはしたけども、内心は小山さんが言う通り、お前になにがわかる、そう思った。
「今日はご馳走様でした。あの、僕歩いて帰りますから」
「えっ、それは悪いよ。送っていくよ」
難しそうな顔で、顔がでかい分表情の変化がいちいち大きい、言った小山さんに、
「いや、いいんです。仕事中じゃないですか。わざわざ送ってもらわなくても、それになんだか歩きたい気分になってしまって」
本音だ。僕は無性に歩きたくなった。小山さんと話すタネが見つからないということもあったけど、本当に歩きたくなった。体を動かしたかった。頭の中のモヤモヤを汗で昇華したかった。性欲(モヤモヤ)はスポーツで昇華させろと保健の授業で習ったし。
「…………そうかい。では、お言葉に甘えさせてもらおうかな。今日は本当に悪かったね…。お父さん、お母さんにもよろしく伝えといて、ね」
さよならを言って小山さんは軽自動車を走らせて行った。よく走る軽自動車だ。でもこまめにタイヤまわしていかないと右前輪だけ減るのが早いだろう。
ビワの木が植えてある道を歩いていると、ふとガキの頃、道助と一緒に町内中のビワを採りまくったことを思い出した。ここらは歩道添いや団地の入り口などに、無闇やたらにビワを植えている。誰も採らない。それこそガキしか採らない。食い放題だ。しかも、少なくとも記憶の中では、美味い。いまだにスーパーで売ってるビワの値段が信じられない。無性にビワが食べたくなった。頭の中は道助ショックにより酔っ払った時みたく行動に理性の抑止力がきいてない。周りに人がいないことを確認すると木にしがみついて、ココナッツモンキーみたく足で木を押して腕で引き体を支える、スタスタ、割と体は覚えているものだ、なってる実を三つ採った。するりと皮を剥き、かぶりつく。そこはかとなく甘く、そこはかとなく香り、そこはかとなくすっぱく、みずみずしい。種を吐き捨てもう一個食う。「腹こわすかなぁ」
種を口で転ばしながら僕は考えた。足の裏から伝わる振動が心地いい。
死ぬということ。死ぬ。現在進行形。だから死んでない。死。結局のところ自分が死んでみないとわからない。でも多分、蛍光灯のスイッチを切る時みたいに、「バチッ」っと切れて終わりなんだと思う。きっとそれで終わり。未来永劫二度と自分という存在は消えてなくなる。無、無、無。
生きているということ。以前テレビで、二次元の世界に人がいた場合、という番組を観たことがある。二次元の世界では三角形の内角の和は180度であり、二次元の世界の人間はそれを知る。しかし球に大きく三角形を描くと、内角の和は180度ではなくなる。もし二次元の世界の人間がこの「謎」を発見した場合、二次元の世界の人間は永遠にこの謎を解くことが出来ないだろう。そんな内容だった。要するに次元というのは知識の限界のことなのだろう。僕達もきっと永遠に宇宙は何故出来たのかわからないと思う。次元がひとつかふたつ上の話になるはずだから。僕達はただビッグバンで生まれたエネルギーを元に動いている。生命とか魂なんてものはビッグバンのエネルギーから生まれた原子が見ている夢みたいなものだと思う。よくわからないけど。もしかしたら僕達の世界よりもっともっと上の存在がいるのかもしれない。不可知論でいうところの神的存在がいて気まぐれに宇宙を創り、人間を創ったのかもしれない。でもまあきっと永遠にわからないんだからもうわからないのだ。少なくとも人類は絶滅するまで子孫を殖やしていく。
殺人。殺人のカテゴリーの中に「快楽殺人」というものがある。自身の性的欲求を満たす為に人を殺すのだ。人を殺すことが直接性的欲求を満たす場合もあるし、死姦やカニバリズムで性的欲求を満たす為に結果殺人を犯す場合もある。僕は「オナニー殺人」と呼ぶ。僕がオナニーをする時にエロ本やエロDVDを見たりするのに対し、快楽殺人者は人を殺す必要がある。人を殺さないと最高のオナニーが出来ない。快楽殺人者は連続殺人犯であることがほとんどだ。捕まっても更正した人はほとんどいないはず。確かに、オナニーをやめろと言われても僕ならやめることは出来ない。回数ぐらいは減らせるだろうが。その点では一般に理解しがたき残虐な快楽殺人者と僕乃至普通の人々はあまり変わりない。
人が意図的に人を殺す時、人はなんらかの欲求を晴らしている。快楽殺人はそのいい例で、痴情のもつれや、敵討ちや、金銭目的や、ただなんとなくでも、人は殺人を犯した時、なんらかすっきりしているに違いない。永遠の問題解決。こびりついた宿便を排泄した時のようなすっきり感があるに違いない。よくはわからないし僕には言葉に表せない。ただ、すっきりするに違いない、としか言えない。よくわからない。
僕が人を殺すということ。わからない。わからない。わからない。僕の頭の中は深海の底に沈んだみたいに暗く重く深く、カニやヒラメに脳みそをつつかれている。ぐるんぐるん。からからから。頭の中には滓しか残ってない。
無駄な思考をやめ、最後のビワに手をかける。皮を剥く。
旋毛に視線を感じる。手元のビワから目線を外し頭を上げる。
目の前に女の人がいる。僕を見て少し笑った。まぁいかれたビワ小僧が目の前にいたら笑うしかないだろう。若くてとても綺麗な女の人。長い髪。すれ違いざまにシャンプーの匂い?とにかくいい匂い。黒髪のロングヘアーが風にたなびき、まるで玉虫のように陽の光を反射してきらきらと輝いている。

気がつくと僕は彼女を殺していた。