読んだら損する「運命はテイクアウト」(3) | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

読んだら損する「運命はテイクアウト」(3)

それから道助のおじさんに会い、お姉さんたちに会い、道助に会った。顔には白い布。多少きれいになったという。が、
「見ない方がいい」
と、おじさんは来る人全員に言った。結局ぼくは道助の顔を見ることなく、さよなら、を言って霊安室?を出た。
そうしたら目の前に巨人がいた。小山さんだ。
「健一君、久しぶりだね」
小山さんは道助の従兄弟で保険会社で仕事をしている。保険の仕事を始めるにあたってまず最初にすることは親戚縁者回りだ。道助の家とうちは家族ぐるみの付き合いをしていたこともあって小山さんはうちにも来たわけである。小山さんが初めてうちに来た時、その時からプータローだった僕は家にいた、僕は驚いたこと為五郎の如し。でかい。でかいのだ。手もフライパンぐらいでかい。指なんか勃起したちんこみたいだ。ちんこもでかいだろう。聞けば身長は208センチあるらしい。
「ジャイアント馬場よりは低いんですけどね」
恥ずかしそうに笑った顔は、巨人症の例に漏れず、アゴが突き出て、末端肥大?、まさしくジャイアント馬場そっくりだ。
「あ、どうも…」
「突然のこと…だったね。たーくんは…。健一君の家の人はもう知っているのかい?」
「いや、どうでしょう、わかりません。ひとまず僕は家に帰ろうと思いまして、出来ることもありませんし…」
この時小山さんは僕が自殺現場に居たことを知っていたのだろうか。
「…そうだね、こういう時は家族だけってやつがいいと思うよ。僕も今日はすぐ帰ろうと思っているのだけど…。イヤなものだよ保険屋なんてさ。こんな時にも、保険きかないな、なんて、仕事のことが頭をよぎってしまうのだから」
そう言って小山さんはうつむいた。うつむいてもなお僕を見下ろすその眼は涙で光っていた。
「あの、頭のなかで、いやなんというか、あまりにショックなことだから、セーブしてるんじゃないですか、なんていうかその…不思議です。悲しいんだけど…まだよくわからないというか、僕もさっきからなんか頭が妙に笑えって命令出してまして、なんか面白いことはないかとキョロキョロ探してるんです。不謹慎ですけど…まあ抑えられないほど変になっちゃってるんですよ…というかなんというかもうわかりません」


道助の密葬が終わり、僕は今自分の部屋で考えている。僕は道助を救えなかったのだろうか。もし、あの時、僕が道助の背中を押さなかったらどうなっていたのか。屋根に上がることを拒んでいたらどうなっていたのだろうか。道助から来た久しぶりのメールに返信しなければよかったのか。道助ともっと密に連絡をとっていたならば。あの日以来思考回路は停止状態。何も考えられない代わりに何度も何度も頭に浮かんでは宿便のように脳のシワの間にこびりつきやがる。
バカヤロウ。
僕の気持ちも考えろ。考えてみろ。もっと考えろ。考えてみたのか?なんでだよ。
僕は今自分が殺人を犯したのかどうかで胸を痛めてるんだぞ。頭が働かない代わりに心臓がドキドキしてる。不整脈になったらどうすんだ。
僕の頭は黒い布で包まれたように光の方向を見いだせない。答えは全て道助が無の世界に持っていった。枕に顔を埋める。真っ暗。
「……いち…健一」
僕を呼ぶ声。母親の声。どうやら少し寝ていたらしい。自分を嫌悪する。
「なに?」
僕は吐き出すように声を張り上げた。
「……………」
返答は無い。いつものことだ。母親は決して用件を言わない。この母親の行動の為に大した用事もないのに階段を上り下りすることになる。僕はため息をついて階段を下りた。