読んだら損する「運命はテイクアウト」(2)
「懐かしいなぁ、よくここから紙飛行機という名のゴミを飛ばしたなぁ」
道助は笑顔を浮かべる。
「あぁ、石を投げたりな。今考えればとんでもない悪だ」
「ふふ」
と、ため息を吐くように笑い道助はタバコに火をつけた。
僕もタバコに火をつける。風が強く、吸っているのかいないのかよくわからなかった。
一服すると、
「俺、今なら空も飛べる気がする」
道助がふわりと立ち上がりながら言った。
「お前ってそんなにメルヘンチックなやつだったか?」
僕も立ち上がる。
「おいおい、俺はメルヘンが衣を着ているような男だぜ?ふふ。ちょっと押してみ」
道助の言う通りに、僕は道助の背中を押した。極々軽く…。
道助は傾斜を駆けていき、飛んだ。
数瞬後、
「パァーン」
という乾いた音が、ぐるんぐるんと風に揺れて耳に入ってきた。
僕は階段を駆け下りたけれど、道助の周りにはもうマンションの住人達でいっぱいだった。遠まきに立ち尽くしているとサイレンの音が聴こえてきて、道助は救急車に乗せられていった。
僕はただ立ち尽くしていた。
とにかく病院へ。そう頭に浮かんだ時にはもう周りにマンションの住人はなく、青いビニールシートが地面を覆っていた。僕は、おそらく顔を真っ青にして病院へと駆け出した。ここらで救急車が行く病院はA病院しかない。最短距離を走る。久しぶりの全力疾走。走り方がよくわからなくなっていて、しかし心はより速く走りたくて、僕は三回前のめりに転んだ。三回目は上手く前回り受け身がとれて、流れるようになにごともなかった雰囲気を醸し出して走りだせた。ちょっとにやけた。
意を決して病院内に入る。受付は無視した。大して大きい病院ではなく、大して大きなロビーではなく、ロビーを見渡せば一ヶ所、空気が違う。色がついてるんじゃないかと思うほど、澱んでる。澱みはロビーから奥の廊下に流れている。病室へ続く廊下じゃない。廃病院で肝試しをするならば一番盛り上がるであろうコース。僕がその廊下の入り口を曲がると同時にソファーに座る道助の母親と目があった。もうどうしようもなく目があってしまった。こんな時でも、僕はおばさんに怒られると思ってドキドキした。
「あ、あの…」
しばし無言のあと、僕は謝ろうと話かけた。僕の目は床を見ている。とてもじゃないがおばさんを見ていられなかったし、とても後ろめたいものがあった。
「健ちゃん?…大きくなったわねぇ」
おばさんは、当たり前だが、げっそりした表情。で、ありながらも微笑して僕に言った。予想外のおばさんの態度に僕は面食らった。少しほっともした。
「あ、あの…僕は今日…」
「みっちゃんの部屋からこれが出てきたの」
僕の言葉を遮って、と言っても何を言おうかまとまっていなかったのだが、おばさんは手に持っていた手紙を僕に渡した。
それは遺書だった。
家族のみなさんへ
「僕は自殺することにしました。この手紙を読んでいる頃にはもうきっと僕は死んでいることでしょう。でも、どうか悲しまないで下さい。僕は死ぬことがいいのです。楽しみでさえあります。死んで無になることが楽しみなのです。僕は楽しく死んで幸せになるのです。どうか理解して下さい。僕が死ぬ理由は、納得してくれるとは思いませんが、ただなんとなく、であります。強いていえば時間から解放されたい、と、思ってしまったことです。お父さんお母さんには一切非はありません。当然姉さん達にもです。僕が勝手に死にたいと思い、死んでいっただけです。ごめんなさい。僕はこの家に生まれて幸せでした。みなさん可愛がってくれてありがとう。そしてごめんなさい。これから健ちゃんと会ってきます。もちろん健ちゃんは僕の死にたいと思う気持ちに一切関係ありません。健ちゃん、迷惑かけてごめん。無茶なこというけど、気にしないでくれ。忘れてくれ。ごめん。最期に会っておきたくてさ。僕は弱い人間だから。というわけですので、お父さん、お母さん、警察のみなさん、もし僕が死んだ場所に健ちゃんが居ても僕の自殺とは関係ありません。むしろ被害者でしょ
う。勝手だけどありがとう。
最期に、
全ての人達に感謝。先立つ不幸をお許し下さい」
最期に書かれていた日付には“分”まで書かれていた、俺への気遣いだろうか、ちょうど道助からメールが来た10分前。その10分間、道助はなにを考えていたのだろう。
僕が遺書を読み終わるのを見計らって、
「ごめんね、ごめんね」
おばさんは泣き崩れた。呼吸がうまく出来ないおばさん。嗚咽混じりになるおばさん。もはやなんか吐いてるおばさん。ひょっとしたら昨日ニンニク食った?おばさん。おばさんもだいぶつむじ辺りが薄くなったなぁおばさん。なんというかもうおじさん。
「そんな、おばさん…僕は…」
僕は何を言ったらいいのかわからなくなって、ただただ病院の床を見ていた。
道助は笑顔を浮かべる。
「あぁ、石を投げたりな。今考えればとんでもない悪だ」
「ふふ」
と、ため息を吐くように笑い道助はタバコに火をつけた。
僕もタバコに火をつける。風が強く、吸っているのかいないのかよくわからなかった。
一服すると、
「俺、今なら空も飛べる気がする」
道助がふわりと立ち上がりながら言った。
「お前ってそんなにメルヘンチックなやつだったか?」
僕も立ち上がる。
「おいおい、俺はメルヘンが衣を着ているような男だぜ?ふふ。ちょっと押してみ」
道助の言う通りに、僕は道助の背中を押した。極々軽く…。
道助は傾斜を駆けていき、飛んだ。
数瞬後、
「パァーン」
という乾いた音が、ぐるんぐるんと風に揺れて耳に入ってきた。
僕は階段を駆け下りたけれど、道助の周りにはもうマンションの住人達でいっぱいだった。遠まきに立ち尽くしているとサイレンの音が聴こえてきて、道助は救急車に乗せられていった。
僕はただ立ち尽くしていた。
とにかく病院へ。そう頭に浮かんだ時にはもう周りにマンションの住人はなく、青いビニールシートが地面を覆っていた。僕は、おそらく顔を真っ青にして病院へと駆け出した。ここらで救急車が行く病院はA病院しかない。最短距離を走る。久しぶりの全力疾走。走り方がよくわからなくなっていて、しかし心はより速く走りたくて、僕は三回前のめりに転んだ。三回目は上手く前回り受け身がとれて、流れるようになにごともなかった雰囲気を醸し出して走りだせた。ちょっとにやけた。
意を決して病院内に入る。受付は無視した。大して大きい病院ではなく、大して大きなロビーではなく、ロビーを見渡せば一ヶ所、空気が違う。色がついてるんじゃないかと思うほど、澱んでる。澱みはロビーから奥の廊下に流れている。病室へ続く廊下じゃない。廃病院で肝試しをするならば一番盛り上がるであろうコース。僕がその廊下の入り口を曲がると同時にソファーに座る道助の母親と目があった。もうどうしようもなく目があってしまった。こんな時でも、僕はおばさんに怒られると思ってドキドキした。
「あ、あの…」
しばし無言のあと、僕は謝ろうと話かけた。僕の目は床を見ている。とてもじゃないがおばさんを見ていられなかったし、とても後ろめたいものがあった。
「健ちゃん?…大きくなったわねぇ」
おばさんは、当たり前だが、げっそりした表情。で、ありながらも微笑して僕に言った。予想外のおばさんの態度に僕は面食らった。少しほっともした。
「あ、あの…僕は今日…」
「みっちゃんの部屋からこれが出てきたの」
僕の言葉を遮って、と言っても何を言おうかまとまっていなかったのだが、おばさんは手に持っていた手紙を僕に渡した。
それは遺書だった。
家族のみなさんへ
「僕は自殺することにしました。この手紙を読んでいる頃にはもうきっと僕は死んでいることでしょう。でも、どうか悲しまないで下さい。僕は死ぬことがいいのです。楽しみでさえあります。死んで無になることが楽しみなのです。僕は楽しく死んで幸せになるのです。どうか理解して下さい。僕が死ぬ理由は、納得してくれるとは思いませんが、ただなんとなく、であります。強いていえば時間から解放されたい、と、思ってしまったことです。お父さんお母さんには一切非はありません。当然姉さん達にもです。僕が勝手に死にたいと思い、死んでいっただけです。ごめんなさい。僕はこの家に生まれて幸せでした。みなさん可愛がってくれてありがとう。そしてごめんなさい。これから健ちゃんと会ってきます。もちろん健ちゃんは僕の死にたいと思う気持ちに一切関係ありません。健ちゃん、迷惑かけてごめん。無茶なこというけど、気にしないでくれ。忘れてくれ。ごめん。最期に会っておきたくてさ。僕は弱い人間だから。というわけですので、お父さん、お母さん、警察のみなさん、もし僕が死んだ場所に健ちゃんが居ても僕の自殺とは関係ありません。むしろ被害者でしょ
う。勝手だけどありがとう。
最期に、
全ての人達に感謝。先立つ不幸をお許し下さい」
最期に書かれていた日付には“分”まで書かれていた、俺への気遣いだろうか、ちょうど道助からメールが来た10分前。その10分間、道助はなにを考えていたのだろう。
僕が遺書を読み終わるのを見計らって、
「ごめんね、ごめんね」
おばさんは泣き崩れた。呼吸がうまく出来ないおばさん。嗚咽混じりになるおばさん。もはやなんか吐いてるおばさん。ひょっとしたら昨日ニンニク食った?おばさん。おばさんもだいぶつむじ辺りが薄くなったなぁおばさん。なんというかもうおじさん。
「そんな、おばさん…僕は…」
僕は何を言ったらいいのかわからなくなって、ただただ病院の床を見ていた。