パオーン殺人事件
霜が薄紙のように積もった朝。まだ太陽の光は若くオブラートに包まれたように霜の湿気がしとしと。いつもの朝。平和な朝。だが事件の始まりを告げる鐘の音はいままさしく鳴らされようとしていた。
「パオーン」
けたたましい音が朝の静けさを崩す。でかいでかい動物の鳴き声だった。その鳴き声は半径500メートルの家々の明かりを灯すには十分なものであり、特に向こう三軒両隣の家人は寝間着のまま、パンツ一丁の者もいた、通りに飛び出してきた。そしてこの時また「パオーン」と轟音がこだました。
はてはてこれは一体、などと寝ぼけた頭で話しあう隣人たち。警察に電話をすると5分もしないで警官がやってきた。
「あの家からなにやらパオーンなどと聞こえるのですよ」
こう説明するより他にない。筆記すると実に滑稽ではあるが本人たちはいたって真面目である。
「はぁ、パオーンと、ねぇ」
警官は先ほどの轟音を聞かなかったらしい。隣人たちはどこか馬鹿にされたような言い草に少しカチンときた。言い草だけではなくこの警官の男前でも不細工でもなく、よくある顔のように見えて掴みどころのないような顔、あからさまに大きなあくびをし、面倒臭いなぁとばかりに帽子をとり頭をボリボリ掻く仕草が隣人たちの不安な心情を刺激した。
「早く音のした辺りの様子を見てこい」と隣人たちに促されて警官は、悪びれる様子もなく大きなため息をついて、音の発生現場、恐らくは田中さん家、のインターホンを押した。
ピンポンピンポーン。
普通のインターホンの音がやけに大きく聞こえる。固唾をのんで、文字通りゴクリと唾をのみ込む音が聞こえた、見守る隣人たち。その時、
「パオーン」と再度再度の大轟音。しかし今回はそれだけではない。ずどぉんずどぉん鈍い音が続き田中さん家が大きく揺れる。
ただ事ではない。
言葉を無くす隣人たち。ここにきてようやく警官はその職務を背負った顔つきになり無線で応援を要請すると、今度は応援を呼んだことで安心したのかニヤリと笑い顔になり、「もう一回鳴らしてみましょうか」と言い、誰の承諾も得ないまま、またインターホンを鳴らした。
ピンポンピンポーン。
またしても「パオーン」と轟音が響く。そして今度はバリバリバリバリと音がした。隣人たちはなんだか田中さん家が軽くなったような気がした。
警官は「ありゃりゃ」とこの緊張感漂う場の雰囲気に合わぬ気の抜けた声を発し、
「じゃあちょっくら中を覗いてみますか」と言い、背を丸め腕を組ながら玄関の扉を、鍵がかかっているのを確認すると、ドアノブの辺りをガンガン蹴りだした。この先ほどまでのちゃらんぽらんとした男からは想像出来ない行動に隣人たちは度肝を抜かれた。そんなことをしていいのだろうか、賠償はどうなるのだろう、自分は関係ない、などをこんな時に考えてしまうのが一般的日本小市民である。
続
「パオーン」
けたたましい音が朝の静けさを崩す。でかいでかい動物の鳴き声だった。その鳴き声は半径500メートルの家々の明かりを灯すには十分なものであり、特に向こう三軒両隣の家人は寝間着のまま、パンツ一丁の者もいた、通りに飛び出してきた。そしてこの時また「パオーン」と轟音がこだました。
はてはてこれは一体、などと寝ぼけた頭で話しあう隣人たち。警察に電話をすると5分もしないで警官がやってきた。
「あの家からなにやらパオーンなどと聞こえるのですよ」
こう説明するより他にない。筆記すると実に滑稽ではあるが本人たちはいたって真面目である。
「はぁ、パオーンと、ねぇ」
警官は先ほどの轟音を聞かなかったらしい。隣人たちはどこか馬鹿にされたような言い草に少しカチンときた。言い草だけではなくこの警官の男前でも不細工でもなく、よくある顔のように見えて掴みどころのないような顔、あからさまに大きなあくびをし、面倒臭いなぁとばかりに帽子をとり頭をボリボリ掻く仕草が隣人たちの不安な心情を刺激した。
「早く音のした辺りの様子を見てこい」と隣人たちに促されて警官は、悪びれる様子もなく大きなため息をついて、音の発生現場、恐らくは田中さん家、のインターホンを押した。
ピンポンピンポーン。
普通のインターホンの音がやけに大きく聞こえる。固唾をのんで、文字通りゴクリと唾をのみ込む音が聞こえた、見守る隣人たち。その時、
「パオーン」と再度再度の大轟音。しかし今回はそれだけではない。ずどぉんずどぉん鈍い音が続き田中さん家が大きく揺れる。
ただ事ではない。
言葉を無くす隣人たち。ここにきてようやく警官はその職務を背負った顔つきになり無線で応援を要請すると、今度は応援を呼んだことで安心したのかニヤリと笑い顔になり、「もう一回鳴らしてみましょうか」と言い、誰の承諾も得ないまま、またインターホンを鳴らした。
ピンポンピンポーン。
またしても「パオーン」と轟音が響く。そして今度はバリバリバリバリと音がした。隣人たちはなんだか田中さん家が軽くなったような気がした。
警官は「ありゃりゃ」とこの緊張感漂う場の雰囲気に合わぬ気の抜けた声を発し、
「じゃあちょっくら中を覗いてみますか」と言い、背を丸め腕を組ながら玄関の扉を、鍵がかかっているのを確認すると、ドアノブの辺りをガンガン蹴りだした。この先ほどまでのちゃらんぽらんとした男からは想像出来ない行動に隣人たちは度肝を抜かれた。そんなことをしていいのだろうか、賠償はどうなるのだろう、自分は関係ない、などをこんな時に考えてしまうのが一般的日本小市民である。
続