本物以上に本物らしいものはニセモノだけど本物以上に優れていたなら新しい本物になる可能性があるのか | からだに恥をかく体操〜えんぴつみがき〜

本物以上に本物らしいものはニセモノだけど本物以上に優れていたなら新しい本物になる可能性があるのか

西暦20XX年、日本がいわゆる第三次世界大戦の戦勝国になってからはや十年。戦争特需により久しぶりに世界のお金を牛耳った日本はアメリカ侵攻をねらう日々。そして日本はタバコを麻薬に指定した。多くの国民は“それが当たり前”だとしたが、不器用な人間は過去も未来も同じ数だけいるようで、タバコをやめない人間も、総人口から比べるとごく少数ではあるが、いた。
「へへっ、お客さん、初めての人だね、いやかまわねぇよ、こちとら金はしっかりもらうが慈善事業さ。で、お客さんは何がいいんだい。ピースかい?」
「いや、マイセンを」
「へぇ、珍しいねぇ。いや、あるよ。確かこの辺りに」
せむしの中年男は目の前にあるダンボールの隅めがけて手を突っ込んだ。
「ほら、あった」
男は真空パックされているビニール袋を取り出した。ビニール袋には紙が貼ってありニコチンの海に入れられたミミズのような字で“マイルドセブン”と書かれていた。その下に日付が入れられている。一年前の日付。
「へへ、なーに品質は保証するよ。それにしても珍しいな。このご時世で煙を吸う不器用な奴はたいていあくの強いやつを吸うってのに。お客さんはずぅっとマイセンかい?」
「…いくらだ」
俺は質問を無視した。
「おぉおぉ、悪いね。へっ、ヤボなこと聞いちまった。金は、えぇっと、百本で八万円だから…十二万だね」
「現金でいいか」
「よござんすよ、他は知らねえがうちは現金歓迎よ」
俺はジャケットの内ポケットから金を出し男に渡した。
「おっと待った」
帰ろうとした俺を男は呼び止めた。
「捕まるなよ」
男は低い声で言った。
「捕まっても俺のことは言うなよ…へへへ、俺が捕まったら困る奴はたくさんいるんだ…政治のお偉いさん、軍人さん、ヤクザ。牢屋ん中が安全だなんて考えないこった。くれぐれもチュウイするんだぜ」
俺は無言で部屋を出た。
家に帰った俺はさっそくタバコをフィルターに取りつけて火をつけた。
ふざけた世の中だ。思えばずっとふざけた世の中だ。俺はずっとそう感じていた。同級生は高校生になれば高校生気分になり、大学に入れば大学生気分になり、社会人になれば社会人気分になり、恋人が出来れば恋人気分になり、子供が出来ればパパママ気分になり、上司になれば上司気分になり、悪法であろうが法を守れば善人気分になり………俺には出来ない。しかし、羨ましくもある………。
そんなことが頭によぎりながら一本目のタバコを吸い尽くす。もったいないからじゃない。なるべく証拠を残さない為だ。


終わり