何以笙簫黙 第 4 章 命運(4) | アジアドラマにトキメキ!

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第 4 章 命運(4)

金鶏山A区157座ーーまるで家の住所のような番号

 

清明節のような供養の時期ではないせいか金鶏山の上にほとんど人が居ない。黙笙が父親の墓石の傍に座り頭を石碑に近づけると、まるで父親が生きていた時の父と娘でおしゃべりをする姿に見える。

 

黙笙は今も父親とおしゃべりをする

「お父さん、会いに来るのにこんなに長い時間がかかったけど、私のせいにしないでしょ?本当は戻って来たくなかった・・・」

 

「もしかすると私が臆病者で受け入れることが出来なかったのかもしれない。私が離れる時は確かに一人の人間だったのにどうして今、一塊の碑になってしまったの?」

 

「私が帰国さえしなかったら、すぐそこでまだ生きているように感じていたはずなのに。今でも覚えている、飛行機に乗る前に買ってくれたチーズビスケット・・・。あの時お父さんは私を騙して、アメリカに行って見てこればどうか、と勧めた。再び戻ってこれないようにして。だけど少しも良くないと思うよ、戻ってこれないなんて・・・」

 

墓地の写真には黙笙と少し似たところのある年若い人が終始親しみ深く微笑んでいる。黙笙は袖を掴んで写真を拭いて

「お父さん、この写真は大学時代の?こんな若いころの写真なら、若い鬼になりすますことができると考えてね」(中国ではひとが死ぬと魂が残って鬼になるという迷信がある)

ごく薄い小雨のような霧が山間をすっぽりと包み込んで、周囲はまるで二度と音のしない世界のように静まり返っている。黙笙は墓石を叩いて言う「私のことは気にしないでね」

長い時ここに佇んでいると黙笙の目は段々、山間の霧のようにぼんやりとしてくる

「お父さん、彼が言ったの。うん、そう何以琛、覚えているでしょ。私たちは又一緒に居られると彼が言ったのよ・・・いいと思う?」

当然誰も答えてはくれない。暫くしてから黙笙は低い声で話しかける

「私はあまり良くないと思う。彼はあんなにも優秀でとても多くの人に好かれているから、もっといい人を見つけることができる。私達はあんなにも長い時間離れていて、その間にあったことは何も知らない。もう一度付き合うのは矛盾が幾重にも重なって、彼は私に対してかなりがっかりすると思うのよ。昔から何時も私に失望してたから・・・。また別れることになったら自分がどうなってしまうか見当もつかないし、今の状況は少なくとも私には慣れてしまって・・・」

ここまで話してまた言葉に閊える。どのくらい時間が経ったのかわからない。

「私のことはどうでもいい。心配しないでね・・・行くね、お父さん」黙笙はそっと言った。

 

下山する頃には雨はもう止んでいた。山の麓で振り返ると、霧の中の山頂は夜の気配で薄くすぐに消えそうになる。

まるで別世界のよう・・・。

街に戻ると空はすでに暗く、黙笙は携帯電話の時間をちらっと確認すると、帰るのは明日にするしかなさそうだった。市街地の宿に続けて尋ねてみても全て満室で、最後に市中心の高いホテルを探し当て、風呂に入り衣服を洗い早く寝すぎて結局すぐに起きて階下に出る。

 

ホテルを出て行くと、そこはY市で最も賑やかな貞観路。Y市は山青水秀(山青く、水清く)で観光都市として名前が知られているせいか、この時の貞観路の観光客はやはり少なくはない。

黙笙はふと思い出す。自分が初めてY市で以琛を見かけたのはこの賑やかな道の上だった。

あの時は既に恋人同士だった二人なのに、大学一年の冬休みの帰りがけ、以琛はなぜか自分の家の電話番号を渡すのを躊躇っていたので、彼女は悔しくて辛かった。恋人なのに彼氏の家の電話番号さえも知ることができないの?

別れる前に駅でごねるのに失敗した後、黙笙は憤然として振り向いてすぐに走った。

何歩も走らないうちに何で腹を立てたのか後悔して、もしかしたらまた駄々をこねれば以琛は情に脆くなるかもしれないと、振り返って見たら駅前に以琛の姿はなかった。

 

家に帰りついても気が晴れずに楽しくない。物は食べる気にもなれないし、テレビを見ても何を放送してるかわからない。その後、考えが甘すぎるけどもしかしたら以琛に出会えると思って毎日のように街に出かけて行った。

そして、本当に出会えた。

あれは年末の空から小雪が舞うある日、彼とその時はまだ見知らぬ人の以玫が道路の向こうを通り過ぎた時、彼女は全く反応することができなかった。本当に出会えたのに。実際には何の希望も抱けなかったから、だってこの街には本当にたくさんの人が居て・・・。

次の瞬間、彼女は通りを急いで横切り彼に抱きついた・・・。

この木の下で、ふかふかした白い帽子を被った女の子が通りがかりの曖昧な眼差しで困惑した顔つきの少年を抱きしめて興奮し叫んだ「以琛、あなたに出会えるってわかってた。わかってたの!」

 

黙笙は目を閉じた

 

彼らの関係は昔の事になったとして、困ったのは全てが昨日のことのようにはっきりとしていること。

彼女は取りつかれたようにカメラを取り出して誰も居ないとこに向ってシャッターを切る。

現像した写真には誰も歩いていない広々とした通りに一片の空白・・・