飛行機は定刻どおりに着陸した。

深夜に到着、実家に帰りついた頃には日付が変わっていた。

 

シャワーを浴びてベッドに潜りこむ。

僕はとても疲れていた。

確認事項も雨も僕を疲れさせた原因でもあるだろう。

僕の部屋は僕が高校を卒業した当時のままだ。

時々母親が掃除をしているのだろう。

埃ひとつない。

僕はソファベッドで寝ていた。

いいベッドとまではいかないが、今でも寝心地はよかった。

まるでソファベッドが僕の身体を形状記憶しているかのようにフィットした。

多分、僕の体型が高校時代とさほど変わっていないのもあるだろう。

そんな心地のよいソファベッドで僕はそのまま静かに眠りについた。

 

朝になって、多少の疲れは残っていたものの、澄み切った青空、小鳥のさえずりや蝉の鳴き声に残りの疲れはすぐに消えていった。

僕は実家でも朝のストレッチと筋トレはかかせないようにした。

今日は地元の盆踊りらしく役員をしている僕の両親は、朝から提燈の準備やらお供えものの準備やらで忙しそうにしていた。

僕に与えられた仕事は犬の世話だ。

 

実家にはミニチュアダックスがいた。

祖父が生きていた頃は祖父がよく世話をしていた。

祖父は当初、犬を飼うことに大反対したらしいが、祖母に他界された祖父にとって、犬の世話は結果いい刺激となった。

祖父が他界してからは、犬は昼間、ゲージの中でお留守番となった。

いなくなって初めてお互いの大切さに気づく。

犬も祖父がいなくなった時は、どことなく寂しげだったという。

その犬の世話をこの休暇中は僕がすることになった。

 

犬の世話をする前に、僕は仏壇に向かった。

仏壇の前に正座し、蝋燭に火をつけ線香をあげる。

鈴を鳴らし帰ったことを祖父と祖母に報告する。

いい線香の香りが漂う。

犬がかまってくれと言わんばかりに尻尾を振って僕を少し遠くから眺めている。

犬自身もなんとなく分かっているのか、僕の報告が終わるまではちゃんと待ってくれていた。

報告が終わり、犬に「よし」と言って両手を差し伸べると犬は喜んで僕の元に駆けてきた。

ひとしきり犬をあやしてから、僕と犬はソファに座り久しぶりの実家の空気感を静かに味わった。

 

昼になって両親が一旦帰ってきた。

久しぶりに会うと、どことなくよそよそしい感じになってしまう。

そんなよそよそしい雰囲気の中、三人で昼食を食べた。

素麺だった。

実家の素麺のつゆは、いりこから出汁をとる。

その出汁に地元の醤油屋でかった薄口醤油を入れて作る。

茗荷と小口葱をたっぷりとそのつゆに入れて。

素麺を一気に啜る。

美味い。

あっという間に食べ終わった。

そう言えば、去年の夏に彼女と子どもとで流し素麺をしたんだった…。

 

その日、とても激しい夕立があった。

これまでに見たこともない大きな雨粒が空から降ってきた。

暑い夏の蝉の大合唱は一旦お預けだ。

結局、盆踊りの時間にも雨が降ったため、屋内の座敷で踊ることとなったらしい。

村の人たちで飾った提燈も全部ずぶ塗れとなったとのことだった。

せっかく作ったのにと母親はぶつぶつ言っていた。

今時の子どもは盆踊りに参加しないのか、それともただ単に雨だったからか、子どもに渡すはずだったスナック菓子をたくさん持って帰ってきた。

幼い頃、お菓子欲しさに盆踊りに行ったのを思い出した。

 

僕は久々に実家に帰ったことを友人たちに連絡した。

と言っても僕の交友関係は広くないのだけど。

少ないけれどとても深い中だとは思う。

二人の友人と予定が合って、久しぶりに再会することになった。