『歌う国民』渡辺裕(中公新書)
幕末、欧米の恫喝に屈して開国したときから、「列強に負けない近代国家を建設する」ことが日本の最大の目標となった。
明治政府は政治、外交、医学、軍事、土木、教育などなど、ありとあらゆる分野を西洋から学びはじめた。
そのなかに「(西洋)音楽」というものも含まれていたのだろうと、私は考えていた。
ところがこの本は冒頭で、「そうではない」と否定する。
たしかに音楽も西洋から学ぶのだが、芸術大国にするとか、欧米に負けない人材を育成するといった考えは、明治政府にはなかったというのだ。
ではなにが目的だったのか。
それは「国民」意識の確立だったと著者はいう。
簡単にいえば「自分は日本人だ!」という意識、日本人としてのアイデンティティを人々が持つことが、国の音楽政策の主眼だったというわけだ。
そうした視点に立って、唱歌、校歌、県歌などの背景を読み解いていく。