東京大学の講義の見学
東大の講義に行くことになったいきさつは、「東大では、ハーバード大学のような学生の対話で進める授業はされているのですか」と、知り合いの東大の学科長の先生に聞くと、「そう、それね。東大でも本格的にやろうとしているところなんですよ。一度、見に来ますか。」と、気軽に言って下さいました。その言葉を聞き逃さないで、実際に見に行かせて頂くことにしました。
まず驚いたのが、訪ねていった東大駒場にある学科長先生のお部屋です。秘書の方のカウンターがお部屋の前にあり、その前のソファーでしばらく待つように言われました。約束の時間になると、その奧の社長室のような豪華なソファーのあるお部屋から、先客の方とお話をされながら出てこられました。「すごい所で、お仕事をされているのですね。」と、ついつい見たままを言ってしまいました。「そうなんですよ、学科長は、会議や打ち合わせばかりなんですよ。研究が進まなくてねえ。」と、答えられていました。
その先生に案内されて、新しく11月にできたと言われるKALSという建物に行きました。KALSと言うのは、アクティブラーニングの為の教室です。20億円かけて作られた最先端教育施設です。
1日目に見せて頂いたのは、山内先生の講義です。ノートパソコンを個人が使いながら、グループセッションをしていました。2~3人が小グループになり、十数人で討議を進めます。教室の正面には、投影機が使われて2面の映像が大きく映し出されています。それぞれ、別々のコンピュータとつながっていて、とても情報量の多い学習環境です。コンピュータのセットや、机の配置、資料印刷、授業中のサポートをする要員がいます。学生全員が、シンクパットのコンピュータをそれぞれが使い、論文を読んだり、互いに論文の紹介をしたり、論文を基に話し合ったりして、最後にグループごとに発表をしていました。
2日目の講義は、外国人の先生による、全て英語での講座でした。学生も英語で話し合いながら、英語で論文を仕上げていく実習でした。さすがの東大生でも、1、2回生の講座で、全て英語会話で進める学習は大変だなあと思いました。この講座も、ノートパソコンを使いながら英語で書いた論文の相互校正の時間でした。二日目の教室は、4面の壁に5つのスクリーンがあり、先生は、実物投影機、タッチパネルスクリーンによる講義、そしてコンピュータを通した動画などを駆使して、講座を進めていました。最先端の機器環境を全て使いこなしながらの、動きのある90分でした。理系の学生は全員、この講座を取り、英語で論文を書き、プレゼンをする力を付けるのを目的としていました。
今回の東大訪問のめあては、子ども達の能力を、どのように生かした学習法があるのかを見に行くことでした。さすがに、東大の学習環境は素晴らしく、また、講義を進めている先生も日本、いや世界の第一線の所で活躍されている人なので、これは本当にすごいことだと思いました。
しかし、最先端の情報機器を使うほど、情報量は増えるのですが、学生の緊迫した討論、学生の文章力(思考力)を高める場面が少なくなるように感じられました。私たちのこぎつね小学校のような、独自学習を自信を持って語り、おたずねし合い、返答するというような、対話による学習時間が少なくなるように感じます。また、情報機器は、与える、そして読む方に偏り、実際に学生が書く活動も少ないように思いました。一方、東大で指導する先生はとても立派な方なので、そのパワーと情報と環境に、能力の高い学生達がぐっと伸びていくのだと思いました。
今回、賢い大学生が、本気になって、私たちの小学校の子ども以上に、活発に独自学習をして、議論しているイメージを持って見学に行きましたが、東大にもその姿がありませんでした。本気で学ぶ独自学習と、本気で議論し合う相互学習の姿は、いったいどこにあるのでしょうか。
学びが浅く、議論が形式的になってしまっていては、真の学びとは言えません。意見が混沌とし、頭が痛くなるような、多様な議論が林立する学習を創らなければ、素晴らしい発想や思考は育たないように思います。素晴らしい次世代の日本の宝を育てる小学校教育へ、一歩、踏み出しましょう。
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