♪「漂流者たち」が流れ始める店内。

 会計を済ませて店を出るところにイントロが聞こえてハッとするいずみ(樋口可南子さんで)。後ろ髪を引かれながら喫茶店を後にする。

「いやあ、息子さんが継いだとか聞いたけど、なんかますますおいしくなってるね」 

連れの酒店店主が満足げに笑う。

「ええ、テレビの料理番組やってる人に弟子入りして修業したらしいですね。若い子も結構入ってましたね」

「こりゃあ商店街にもいい影響あるね。夜の営業やらないのかねえ」

 話しているうちに酒店に着き、立ち止まる。

「そんなら、来週のイベントよろしくお願いします。利き酒、あんまり難しくしない方がいいですね」


 商店街を抜けると、大きな酒蔵が見えてくる。いずみはここの七代目当主をつとめている。駐車場に赤い車があるのを見て、小走りに裏口から入る。

「あら、飛行機早めたの?」

年輩の事務員と談笑しているみづえ(桃井かおりさんで)に声をかける。

「ああ、少し早めに出てきたの。お昼は何ご馳走になったの?」

「何言ってんの。喫茶店でワリカン」

「へえ~、人気の吟醸酒、銀座のお店にもあったわよ」

「はいはい、ああ、頼まれてたコピーね、もう、トナー交換大変だったんだからね」

 ヒデキのデビューからの掲載記事、グラビアが3冊ほどファイルされている。

「あーりがとう!絶対いい本書いてくれるよ。私もこれ、コピーしようかな??」

 みづえのつてで某有名ライターさんが執筆してくれるそうだ。

「まだまだあるけどね、とりあえず主だった記事ね。しかし、これなんかかわい過ぎる、王子様だもんね!」

眺めながらふたりでうっとりする。

「弟さん、どうしてる?」

「うん、まあいいパパよ。みづえは?勇一君と会ってるの?」

「世田谷の園芸店継いだからね。忙しいと思うわ」

「ふーん…、まあ、弟ってかわいいよね…。このヒデキは、もう孫みたいだけど」


 空港に向かうみづえを見送って、脇の酒蔵を見上げる。次の新酒をヒデキの親族の墓参に持って行こうと思った。