その2…いつ(宮本信子さんで)

♪「ホップ ステップ ジャンプ」が流れ始めるマンションの管理人室。つい、曲に合わせて手振りをしているいつ。

振り向くと、ガラス窓の向こうで見つめている男の子と目が合う。

「あら!ふふふ、たっちゃん、お帰りなさい」 

「これでしょ?」

「あー、それは、“シェー”ね」

「きょうね、学校で『おせわになっている人におてがみかきましょう』だったんだ。これ、おばさんに!」

「えっ、ほんとに。いいの?開けていい?」

「うん!」

「“いつさんへ いつもいってらっしゃい、おかえりなさい 言ってくれてありがとう。

いつまでも げんきでね。たつお”

 え~、すごい、字もじょうずね!」

「へへへー、じゃあまた明日ね!」 

「ほんと、ありがとう!ママにもお礼しとくよ。いつさん、カンゲキよ!」

 

 エントランスの花に水をかけていると、若い女性(橋本環奈さんで)が駈けよって来た。

「ポスティングよろしいでしょうか?」

「あら、はいはい。何かな?」

「西友の隣に来週オープンします。カレーハウスです」

「わあー、皆さん喜ぶわぁ。絶対行くわね」

「はい!クーポン使って下さい、よろしくお願いします!」

ふわあっと風のようにロビーに入って行った。


 ヒデキのパネルとレコードが並ぶ自室で「人間研究 西城秀樹」を読んでいるいつ。

そこへ、インターホンが鳴る。

「遅くにすみません。先月越して来た槇原です」

「あら、槇原さん、きのうね、大阪のお母さまからチーズケーキ送って頂いたのよ、すっごいおいしいの。ありがとうございます」  

「いえいえ、それより、私今朝出ようと思ったら自転車が見当たらないんです」

「あら!嫌だ、盗まれたのね」

「はい…。それで、明日警察の人と監視カメラ見せて頂くことになりそうなんです。お願い出来ますか?」

「それはもちろんよ。あっ、さっきね、きんぴら炊いたの。少し持って行って。ちょっと待ってね」

ドアを開けて、タッパーを差しだす。

「これね、レトルトだけどおいしいのよ。お夕飯にどうぞ。ヒデキ、カンゲキ!よ」

「えっ、それ何ですか?」

「あっ、ああ、知らないの…。はい、それじゃあ、また明日ね」 

「はい、ありがとうございます。おやすみなさい」

 自室に入り、パネルのヒデキを見上げて溜め息をつく。

 エンドロールと共に「めぐり逢い」オルゴールバージョンが流れる。