その1…こず恵(安田成美さんで)

♪西城秀樹「恋する季節」が流れ始める。音源は目覚まし時計。ベッドから手を伸ばして止めるこず恵。時計に張られた写真を見つめてつぶやく。「ヒデキ…」


♪まあるい目、四角い目、おっきな目、ちっちゃな目~ 口ずさみながらお弁当を詰めていると、カウンター越しに息子の秀樹が口をはさむ。

「あー、今夜要らないよ」

「そろそろ月末か、残業おつかれさん」

「いや、そういう訳でも無いけど」

「へー、なになに。あっ、ちょっとそれ、こないだ誕生日に貰ってたネクタイじゃないの?!」

「うん…、まあ」

「何だよ~、デートか、どこ行くの??」

「え?んー炉端焼き」

「なにー?初デートでしょうに!」

「いや、彼女が行きたいって」

お弁当を渡しながら、背中をバンバン叩くこず恵。


 パート先の従業員控え室。同僚(鈴木保奈美さんで)とテーブルにつく。

「そんでそんでー、彼女どんな子よ」

「わかんないわよ、まあ、前の子より良さそうね。炉端焼きだもんね」

「へーー、帰りに神社寄って帰りなよ!」

「お宅の秀樹こそ家買うとか言ってたじゃん」

「そうなのよー、実は来年、3人目なんだって」

「あらまあ~、おめでと!連続年子じゃないの」

「そうそう。まあばあばもまだ稼がないと」

「わー、いいなぁ~、私もばあばになりたーい」


 買い物袋を抱えてドアを開けると、玄関に息子の靴がある。

「あれれれー、デートどうしたの??」 

「仕事が入ったんだって…。まあ、店に入る前でよかったけどさ」

「え~、そんなぁ…」

 寝室で部屋着を手に取るが、ベッドに座り込む。視線の先のヒデキを見つめる。

 エンドロールと共に西城秀樹「めぐり逢い」のオルゴールバージョンが流れる。