日本人は謙虚だとよく言われるが、その感覚はあながち間違っていないのだと思う。

「自信」というものが付くまでに人はどれだけのことをすればいいのか。
相当な努力を重ねたプロフェッショナルでない限り、それを主張するのは難しい。


何に惹かれた、こんな風に惹かれたと言われれば僕は納得するのだろう。


でも今は…

その関心がどの方向へ向いて歩いているのか、僕は気が気でなかった。


*  *  *

笹木さんは優しい。僕の話を嫌がらずに聞いてくれる。お兄さんが居たらこんな感じなのかな、と
いつも思う。

僕には弟が1人いる。
でもそいつとは歳が1つしか離れてなくて上下関係はあまりない。


友達のような感覚で付き合える知人はたくさんいるが、笹木さんくらい歳の離れた
頼れる大人は驚くほど少ない。

心に余裕のある感じでいつ行っても温かく迎え入れてくれる。

そんな大人な雰囲気のあの人にとても憧れを抱いていた。


でも最近、様子がおかしい。

いつものように優しく迎え入れてくれるのだが、どこか素っ気ない気がしてまともに話をしていない。
僕自身雄弁に話せる方ではないので、聞き手がよほど穏やかでないと相手をイライラさせてしまう。

そういった点でこの間余計なことを言い過ぎてしまっただろうかと気にかけている。


落ち込んだ姿をさらけ出してしまった上に笹木さんの仕事まで体験してみたいとワガママを言って、
最終的には今まで見たことのない困惑した顔をさせてしまった。


いくら僕が常連で仲良くなったからと言ってでしゃばり過ぎたのだ。

あまりにも僕が懐いてしまったので、それを嫌悪したのだ。


迷惑をかけてはいけない。


僕は、笹木さんに部活が忙しいことを理由に今までのように会えない雰囲気を出して彼にこれ以上
甘えてしまわないようにと思った。
なんて素直な口調で言うのだろう。

この世のものとも思えない澄んだ瞳をこちらに向けられ、僕は何を言えばいいのか分か
らなくなってしまった。


 それからというもの、彼が店にやってくる度 僕は緊張を隠せなくなっていた。
彼になんと声を掛けたらいいのかわからない。

自分の言葉が全て幼稚なものに感じられて、言葉のほとんどは発することなく喉の奥に封じ込められた。


幸いなことに、彼は部活が忙しくあまり店にやってこないけれど。それはそれでいつ起こるかわからない事件に巻き込まれるのを待っているようなもので、落ち着いた時間が過ごせるわけではなかった。


   僕の心はこんなに弱かっただろうか。



褒められ慣れていない訳じゃない。
嫌味になるかもしれないが、僕はむしろ褒められて育った方だと思う。

 下手な行動にさえ出なければみんな普通人なのだからそれほど比べようがないのだけれど、
いつも逆らう理由もなく素直に従ってきたのだから優等生と思われたのだろう。


 実際は何もしてきてないのに。


自ずと確立された地位が独り歩きして周りがそう思い込んでいるだけではないのか?


今改めて考えると、「自分のようになりたい」なんて言われたのは生まれて初めてだった。
 嬉しくないといえば嘘になるし、そこで素直に ありがとうと言えば話は一旦済んだのだろうが、
それと同時にある種の不快感が生まれてしまうような気がした。


自分にそんな風に思われる価値などないのではないか…と。