僕が女声で歌う目的で、藤あや子さんの歌に出会ったのは平成21年の春だったと記憶している。
 もちろんそれまでにも藤あや子さんのことも歌も知っていた。日本一の美人演歌歌手と思っていたからだ。僕はどこにでもいる一ファンだったのだ。
 容姿を眺めたり歌を聞くことはあっても、まさか自分が女声で歌う日が来るとは想像していなかった。
 藤あや子さんの歌は高音だから、男性ファンの中には、キーを下げて男声で歌う人もまれにいる。でも僕はファンとしてそんなことはしたくなかった。
 そんなことをしたら興覚めにもなるし、折角の藤あや子さんのイメージを冒どくすることになると思ったからである。
 ふと僕が(藤あや子さんの歌を歌ってみよう)と思ったのは女声の上達にはとてもラッキーだった。
 それまではいろんな歌手の歌を歌って定まらなかった。それで女声の上達も乏しかったのである。ただ、高音化だけは心がけていたから、藤あや子さんの歌にどうにか背伸びして歌えた。゛ 
 本当に僕の女声は藤あや子さんの歌声で育まれたものと思っている。つまり女声が本物になったのは藤あや子さんのお陰だと思っているのだ。藤あや子さんの歌に特化したからこそ高音域が延びて3オクターブの声が5オクターブとなったのである。
 
「きっと貴方は藤あや子さんが凄い美人だから、藤あや子さんの歌を選らんだのでしょう」と言われたりした。
 それも僕は否定はしない。でもそんな簡単なものではない。
「貴方、藤あや子さんを好きになったら死ぬわよ」と、ある女性から脅された。
「そんなことが怖くてファンを辞められるかい」とは答えた。
 でも、僕は藤あや子さんの私生活に関心があるのではない。歌手藤あや子にだけ関心があるのだ。
 私人としての藤あや子さんはとっても寂しい悲しい人生なのかも知れない。結婚して生活苦から歌手の世界に飛び込んだと聞いている。夫も胎児もいたのに。
 夫は離婚後に自殺する。親しくなったマネージャも自殺したと聞いている。そんな中でも歌手藤あや子さんは笑顔を見せて歌っている。
 普段の藤あや子さんは着物なんか着ていない。黒のティシャツの黒のジーンズだと噂されたがジャージのようである。黒のサングラスでロックを聴きながら高速道路を突っ走っている。
 演歌の舞台の藤あや子さんの姿はどこにもないのである。
 僕は密かに思っている。藤あや子さんはとても強い女性でもしかしたら男らしい人に違いないと。
 だから普段の本性を隠して、着物姿に身を包み、美声の演歌で、可憐で優しく美しい女性を演じているはずと思った。
 それは女形の芸風に似ているとさえ思っている。
 僕も女声を出すときはある種の女形。女装はしないけれど。
 それで『藤あや子さんの歌声を見習おう』と決めたのだ。
 自慢するわけじゃないが、ここまでの考えてファンになっている男はいないはずだ。男性は容姿と声だけでファンになっている。反対に女性は『2人の男性を殺した魔性の女』と見て嫌っている。
 素敵な女性を声と姿で演じる、女性出身の女形となぜ見てあげられないのかと思っている。


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