好きな言葉は何かと聞かれたら、
最近言う言葉を決めている。

「悪魔の様に細心に、天使の様に大胆に」
黒澤明の映画作りに対する思いを綴った名言である。

悪魔が細心?天使が大胆?
むしろ逆なんではないかとも思えるこの言葉には、
僕が惹かれる理由がある。

自論を解説すると、
まず「悪魔の様に細心に」というのは、僕のイメージでは水である。
目に見えない小さな隙間も、水ならことごとく流れ落ちてしまう。
そんなツギハギではない完璧を求める姿勢が、この言葉に
潜んでいると僕は考えている。どんな小さな穴も見逃さない、
正に鬼のような形相で物事に対峙する。それが「悪魔の様な細心」ではなかろうか。

では「天使の様に大胆に」とはどういう意味だろう。
僕のイメージでは大胆な中にも優しさの垣間見える、
決して荒々しくない物事を指すのだと考えている。
例えば黒澤の敬愛していたゴッホの絵なんかを例にあげると分かり易い。
彼の絵は一見荒々しいが、決して「雑」ではない。
ダイナミックな表現の中には丁寧に計算された、洗練された技量を感じる。
ダイナミズムをオブラートに包むような技術。
それこそが黒澤の求める「天使の様に大胆に」ではなかろうか。

僕は仕事において、この「悪魔の様に細心に、天使の様に大胆に」
という言葉を常に意識するよう心がけている。
黒澤と僕で生きる世界は違えど、良いものを求める姿勢には
必ず共通の概念が存在していると考えるからだ。

かつてガウディも言っていたという。
「神は細部に宿る」
やはりそうなのである。