自己研さん本、知識本に飽きたときにはいつも小説を読むのですが、小説の偉大さを感じさせてくれる村上春樹氏。

『ノルウェーの森』『1Q84』『アフター・ダーク』と読んできましたが、いつもテーマは現実世界と非日常の世界の境界でさまよう人間模様。
見えている世界の狭さと精神世界の広さ、全く違う世界と実は隣り合わせにいる人生の脆さといった難しい題材にも関わらず、読みやすい。
読んでいるうちに世界に引き込まれます。

この本も、ドラマ「24」のように、複数の出来事が同時進行で進み、徐々にそれらがマージしていくタイプ。個人的には、『1Q84』と双璧をなす面白さだと思います。


現実社会に生きる私と図書館の女、非現実社会と現実社会をつなぐ博士と孫娘・そして世界の終りの僕と影。想像のなかで、荒唐無稽な世界を作り出し、そこに生き生きとした人間模様を描く想像力・構想力、すべてに圧倒されます。


不老不死は、時間を延長することではなく、時間を極限まで短くすることで得られる、「精神の世界」で達成し得るもの、という下りが特に印象に残りました。



純粋なエンターテーメントとしても楽しいですが、あえてここから学んだことを書くとすると、、、「何らのストーリーを展開するには、“ルール”作りが肝」ということかなあ。

ルールがあるからこそ、その中でどう立ち振る舞うかがドラマになり、心理的な変化もうまれる。戦略も出てくる。仕事も人生も同じかもしれない。

自分でルールを作らずにぼけーっとしていると、無味乾燥な時間が流れて行ってしまうのかもしれない。

今年もちょうど半分経過したことだし、早速何かをルール化してみよう。



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金融知識の解説をテーマとする本を多く執筆している橘玲氏。

「わかりやすい」とか「誰でもできる」と銘打った成功者の体験型の How To 本とは次元の違う合理的な分析とわかりやすいロジックが特徴で、
『臆病者のための株入門』『海外投資を楽しむ会』『亜玖夢教授の経済入門』等、ほとんどの著作を読んできました。

この本は、金融勉強本やHow To本のカリスマ作者が、どんな長編小説を書くのか楽しみで手に取りました。


結論から言うと、とっても面白い!おすすめです。


キャラクター設定が細かく、風景描写もしっかり。筆者が小説をよく読んでいること、小説の構成も金融商品を扱うごとく理詰めで考えていることがうかがえます。


外資系金融機関に勤め、一生生きていけるほどではないが、暫くは暮らしていけるだけの大金を持って一線を退いた30代の主人公。人生に投げやりになりつつも、その専門知識へのプライドが見え隠れするというたち振る舞いや心理動向など描写が細かくストーリーに引き込まれます。

愛想がよく義理に厚いが、本質的にドライで自己利益追求を徹底する香港マフィアに片足を突っ込んだ面々と主人公の距離感もいい。

唯一残念なのは、途中登場する探偵の仕事が完璧すぎること、完璧なシナリオを書くヒロインのバックグラウンドが「それっぽい設定」過ぎること。ストーリーに一貫性を持たせようとするあまり、完璧な人間の存在が必要になるという感じでしょうか。



随所にでてくる金融知識についてはどれもフムフムと納得いくものばかりなのはさすが。金融知識本としても面白く読めます。

この本から得たことを一言で言うと・・・
金融知識編としては、
「一番有効な投資は、如何に税金を払わないか?」

人生編としては、
「金融知識は身を助ける。知識は読むだけではなく実践する場がないと身につかない。金融取引を頭を使って始めよう!」
かなあ。



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国際情勢・インテリジェンスの専門家として最近ちょくちょくTVに出ている、
元NHKワシントン支局長の著者。

かなり昔に、外務省のラスプーチンこと佐藤優氏との対談本『インテリジェンス 武器なき戦争』を読んだ際、「世界の舞台裏はこうだ!」「アメリカをはじめインテリジェンスは世界を動かす戦略(陰謀?)をもっている」「日本には諜報力がない」といった筆者たちのコメントに対して、「ホントかいな??」、と懐疑的な眼でみていました。

そこで、小説家ではない“専門家”が自らが知っている世界を表現した“小説”にはどのような世界が展開されているのだろう?と興味を持って、読んでみました。


最初から穿った見方をしていたせいか、突っ込みどころ満載。。

主人公は通信社の記者、語学が堪能で教養あふれるユーモアに富んだ英国人。恋人は容姿端麗、英語・中国語を自在に操る雅楽の先生。官房副長官など脇役たちも、何かを知っているけれど含みをもったヒントしかくれない(一方で、なんだかんだ主人公に機密をポロっと漏らしてくれる!)知的な会話を楽しむタイプばかり。そんな世界はあるのか!?

偽札をおいかけている捜査官以外の、行動のモチベーションも不透明。。
自分だけが知っている、みたいな雰囲気が好きなのか。。。

批判だらけになりましたが、、
断片的な情報を拾い集め、つなぎ合わせて、いくつかの仮説を作っていく。
その仮説に基づいてさらに情報を補強しつつ、将来を予測するシナリオを複数提示し、決定権者に選択肢を示す、
というインテリジェンスの役割は国家としても企業としても必要だとおもいます。

せっかくインテリジェンスに詳しいのであれば、インテリジェンスの世界を紹介するのではなく、インテリジェンスを育てるうえで必要な要件・項目を分解してくれるといいのになあ。



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