「ねえ~お母さん、今度赤ちゃんを産むとしたらどんな子供がいい?」

「わかんない。」

「男の子が良いの?女の子が良いの?どんな子供に育てたいの?」

「そんなの生まれてきてくれたら、それで良いんだよ。

どんな子供が良いなんて、私が望むことじゃないんだから。」

「そんなこと言ってるから、生まれてくるはずの赤ちゃんが生まれてこなかったんだよ。

今度はちゃんと考えなくちゃ、ちゃんと生まれてこないよ。」

「あのさ、もういい加減にその話はやめてくれないかな?

いつもその話を思い出させられて、嫌なんだけど

赤ちゃんが産めなかったことはショックなんだから・・・。」

「僕だってショックだったんだよ。本当は弟か妹が出来てるはずだったのに!」

ちなみに今の私には特に恋人も夫もいないので

赤ちゃんの計画も何も無い。

だけどハリは突然こういう話をするのだ。

ハリが2歳から3歳の頃、自分で想像した赤ちゃんをおんぶしたりしてお世話をしていた。

背中に手を回してうろうろしてるから

「何してるの?」と聞くと

"シーッ Baby is sleeping!"と言っていた。

そんなハリだったので、ポポちゃんという人形を買ってあげたりもした。

そして、私が二人目を妊娠した時

ついついハリに教えてしまった。

なんせハリは私のおなかに飛び乗ってきたり、かなり乱暴だったので

赤ちゃんを守る為に、話さなくてはならなかった。

でもその赤ん坊は、生命力が無かったようで

そのうち、私に酷い腹痛と下痢を起こして

私の身体からいなくなった。

ハリはそれから

ずーっとしつこくいい続けている。

自分の弟か妹が生まれるはずだった話を。

流産は、赤ん坊が選択するのだ。

このまま母体に居ても、自分は健康に生まれることは出来ないとわかった時点で

母体を守る為に、身体から離れていくのだ。

私はそう思って、忘れることにした。

最初のうちは、妊婦さんや乳児を見ると苦しくなった。

公園に居ても涙が出そうになった。

でも、生まれてこられる身体ではなかったんだと自分に言い聞かせて

やっと気持も落ち着いた。

その後で離婚をしたときも

「きっと二人は面倒見られなかった。もしも下の子供が生まれていたら

私は離婚が出来なかったかもしれない。」と思うようにした。

私とハリの未来を分かっていたんだ

だから二人きりで、母子家庭でも生活しやすいようにしてくれたんだと

いいように考えることにした。

簡単に忘れたわけじゃないんだよ。

話したくないから、話さないのに。

なのにハリは今も無神経に亡くなった赤ん坊の話を持ち出して

私をチクチクと痛めつけるのだ。

安定期に入る前に、幼かったハリに教えた自分が悪いのだけど

こんなに長い間責め続けられるのも、キツイ。

「お母さんがちゃんと考えてなかったから、生まれてこられなかったんだよ。」だって。

どんな子供に生まれてきて欲しいなんて贅沢は言えないよ。

授かれたら、それで良いじゃないの?

「もうそういう話はして欲しくないんだけど。」と何度言っても無視。

「お母さんだけじゃないんだよ、僕だって辛いんだから。」だとよ。

「あーあ、弟か妹がいたら・・・。」ってその後に続くのさ。

言われ慣れたけれど

この無神経さにちょっと腹が立つ母であった。