今日書くのはTBSで1992年に放送されたドラマ「十年愛」です。放送当時、私は中学生でした。あれから20年以上経つのに未だに記憶に残る、思い出深い作品です。ひと組の男女の10年間を10話を通して描く(実際は11話)という企画が斬新で面白かったです。


【キャスト】
田中美佐子…谷 青空役
浜田雅功…粟野嵐役
大江千里…田村雅一役
斉藤慶子…吉野 文役
鈴木杏樹…谷美幸役
木村一八…志村浩介役
白川由美…谷 愛子役

【ストーリー】
谷 青空は実は親友である文の婚約者である雅一を密かに思っているがそれを打ち明けることができずに悩んでいる。そんな彼女が偶然出会ったのがお調子者で女にだらしなくて定職にも就かない自称「日本一暇な男」、粟野 嵐。

最初は嵐を相手にもしない青空だが、実は嵐が雅一の幼馴染だったことから二人は関わりを持つように。

雅一への青空の気持ちを見抜いた嵐は「人生一度きりなんだから自分がやりたいようにやったほうがいい」と青空にアドバイスする。その言葉に背中を押された青空は雅一に思いを告白、結婚式直前に式場から二人は逃げ出してしまう。

【レビュー】

十年愛といえば私的に思い出すのはトランポリンをしている男の子と女の子のスローモーションの映像。

このドラマは、花婿略奪に始まり、中絶、妊娠、出産、W不倫、夫死亡、母死亡とさまざまなできごとを経験する青空の波乱万丈の人生を追いかけたものです。

脚本の遊川和彦と八木プロデューサーによると、企画段階で

1.田中美佐子と浜田雅功の二人でドラマを作りたい
2.ひと組の男女の出会いから十年の人生を描く
3.これまで明るいノリのドラマを作ってきたので今回は逆に激しい人生で

ということが決まったそうです。
ちなみに『十年愛』というタイトルは大映ドラマみたいで嫌だと遊川氏は思っていたとか。しかし、八木プロデューサーが「十年愛でいきますから!」と宣言してこのタイトルになったそうですよ。

この作品の見所、それは青空と嵐のボケとツッコミの応酬が繰り広げられる夫婦漫才のようなシーンです。ドラマの中で嵐が「俺たちが結婚したら世界一おもろい夫婦になるで」と言っていますが、二人のやり取りが本当に面白くて。演じている田中美佐子と浜田雅功が楽しんでいるのが画面からも伝わってきてますよ。このカレーシーンは特に必見です。

キャラクターも魅力的でした。一見しっかり者に見えるけれど実はもろくて寂しい時に男性にフラフラっと寄りかかってしまう青空、女癖が悪いけど青空を大切に思う気持ちだけは誰にも負けない嵐、強面で毒舌だけど誰よりも家族を大切にする愛子、恋人と友達に裏切られた悲しさや怒りを抱きながら孤独に生きる文、姉にコンプレックスを感じ、強気な態度をとっているけれど実は自分に自信が持てない美幸。それぞれがこの10年でどう人生と向き合い、成長していくのかもじっくりと見て欲しいです。

それにしても青空と嵐のつかず離れずの関係にはやきもきさせられました。そもそも青空が文から雅一を略奪しちゃったことで文の恨みを買い、事件が起きていくわけですが、雅一との関係がうまくいかなくなったり、浩介と不倫しちゃったり、美幸と嵐が結婚しちゃったりしたのは青空が嵐に恋愛感情を心の奥底で持っているのにそれに気づかないから起こってしまったことなんですよね。

第三話のここらへんでもう既に嵐のことを好きになっちゃってると思うんですが。だって、友達が田舎に帰るのをわざわざ臨月の大変な時期に東京駅まで追っかけて扉が閉まろうとする新幹線に飛び乗ってまで止めようとはしないですよね?だからって青空には雅一の存在があるのでどうにもなりませんけど。

結局最後にいろんな経験をした青空が自分の気持ちに正直になって嵐に思いをぶつけるシーンにはやっと胸がスカッとしました。「さっさと轢きなさいよ!」のこのシーンは最高だった。私、いい子で大人しいキャラってあまり好きじゃないんです。自分でガツガツ行動する方が好き。だからこの青空のがむしゃらさにはやられました。

ひょうきんでおちゃらけ者だけど青空には常に真っ直ぐに気持ちをぶつける嵐というキャラクター。浜田雅功は素でやっているんじゃないかと思うくらい自然体に演じてました。遊川氏によると「脚本は役者で書かされるみたいなものがある。浜ちゃんの場合は圧倒的にそうだった」と。「浜ちゃんならどうするか考えながら書いていた」と言っています。また、遊川氏はその頃ずっと思い続けている女性がいて、ドラマの中でくらいは思いをぶつけたいと思っていたそうです。こういった裏話があると、なぜ嵐がああいうキャラになったのか分かるような気がします。

さらにこの作品を語る上ではずせない二つの疑問。それは…

1.なぜ雅一はメリーゴーランドの事故で死んだのか?
2.なぜ雅一は危篤状態に陥っているのにメガネをつけているのか?

まず1番目。私はこの作品のノベライズを持っているんですけど、そこでは雅一が雅美をかばって交通事故で死んだことになってるんですよ。それなのになぜテレビはあんな死に方をしたのかすごく疑問だったんですけど、実は、遊川氏と八木プロデューサーによると当初は交通事故死でいくはずだったんですって。それが演出家の吉田秋生氏が「それではインパクトがなさすぎる」と言ってあの展開になったらしいです。これには遊川氏も八木プロデューサーもかなりびっくりしたとか。インパクトがないからってあのメリーゴーランドシーンを考えてそれでGOサインが出てしまうのがすごい。

そして、メガネですね。あれは大江千里側がトレードマークだから外すのはNGって言ったらしいです。見るととても変なんですけどね。イメージって大切なんですね。

このドラマ、内容的にドロドロした部分はあるんですが、ただそういったものや展開の激しさだけを売りにした作品ではなく、10年を描くストーリーを通して二人のもどかしい関係だったり、友達や家族の大切さなんかがとても丁寧に描かれた作品だと思います。嵐が青空に向ける真っ直ぐな思いに感動し、愛子のぶっきらぼうだけれど温かい言葉に泣かされました。大江千里の主題歌効果もあって見終わったあとにあったか切ない気分にさせられる素敵な作品です。興味のある方はぜひTBSオンデマンドで。DVDも出てますよ。

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