映画『国宝』で圧巻の演技を見せてくれた吉沢亮くん。

 

朝ドラ『ばけばけ』では作品世界にふんわりと溶け込みながら、ここぞという場面で繊細で深い表現力を見せてくれている。

 

自在に濃淡をつけながら放たれる確かな存在感は、もはやベテラン俳優の佇まいだ。

 

 

 

NHKドラマ・ガイド『ばけばけ』Part2

吉沢亮くんのインタビューが興味深い!

 

 

 

 

吉沢くんが演じるのは、小泉八雲がモデルのヘブンを公私で支える尋常中学校の英語教師、錦織友一。

 

小泉八雲の親友だった実在の人物、西田千太郎がベースとなっている。

 

松江きっての秀才でまっすぐな錦織は、時にクセ強めなヘブンに振り回されながらも忍耐強く真摯に彼に寄り添う。

 

 

 

「利口と、親切と、よく知る。少しも卑怯者の心ありません。私の悪いこと、みな言うてくれます。本当の男の心。おせじありません。何と可愛らしい男です」

 

 

 

小泉八雲は西田千太郎についてこう語っていたという。

 

吉沢くんの錦織はまさにこの言葉通り誠実で健気で可愛らしい。

 

ただ、その一方で…もしかすると心の底には何かを暗いものを抱えていたのでは…?

 

そう思わせるシーンが第11週に登場した。

 

 

 

 

 

感性と役柄に対する深い理解が産んだ吉沢くんの表現力

 

 

ヘブンは過去に深く傷ついた経験から人と深く関わることを望んでいなかった。

 

彼と親交を持ちたいと願っていた錦織はそれを知って驚き、学校の廊下でヘブンを問い詰める。

 

 

 

「あなたにとって私とはどういった存在なのでしょうか」

 

 

 

静かな口調の中に何が何でも真相を問いただしたいという焦燥感が滲む。

 

燃えるような錦織の真剣な眼差し。

 

その激しさは、彼にとってヘブンが友情や親愛を超えた、かけがえのない存在であることを物語っている。

 

 

 

「すばらしい通訳。素晴らしいお世話係。ありがとうございます」

 

返って来た冷水のような言葉。

 

錦織の表情がみるみる間に曇り、深い沼に沈んでいくように瞳に映った悲しみの影がどんどん濃くなって行く。


裏切られたようなショック、悲しみ、失望。

 

吉沢くんはその心の揺れを、潤んでいる訳でも涙が溢れそうになっている訳でもない、微動だにしない眼差しだけで表現し切った。

 

 

 

小泉八雲(Wikipediaより)

 

 

 

この圧倒的な表現力の根底にあるのは役柄に対する深い理解と解釈、そして何よりも、吉沢くんが持つ感性から来るものなのだろうと思う。

 

吉沢くんはクランクイン前に松江にある西田千太郎の旧居を訪れている。

 

西田千太郎が勉強していた部屋を見て、

 

 

 

「その暗くて狭い空間に彼の根本的な部分をうっすら見た気がしました」

 

「ある種学問にすがっているような学問への執念のようなものを感じました」

 

 

 

と語っている。

 

西田千太郎は大磐石と呼ばれるほどの秀才で中学校では主席をとり続けていたものの、突然中途退学。経済的な理由だったと思われる。

 

学問の道を閉ざされた彼の前に現れたのがラフカディオ・ハーン(小泉八雲)だ。

 

西田千太郎にとって松江に赴任して来たこの外国人は、自分と世界をつなぎ未来を切り開いてくれる救世主のような存在だったのかもしれない。

 

吉沢くんが「学問にすがっているよう」と感じ取った西田千太郎の想い。

 

一見重そうにも見える錦織のヘブンに対する執着の背景を、吉沢くんは繊細な感性と役柄に対する深い理解で見事に演じている。

 

 

 

西田千太郎(Wikipediaより)

 

 

 

 

名優 吉沢亮の真骨頂を垣間見る第19週

 

 

 

そして第19週、吉沢くんが積み上げて来た錦織友一という一人の人間の光と影がついに浮き彫りになる。

 

ヘブン一家が熊本へ旅立つ日、一人自宅の屋根裏部屋で机に向かう錦織。

 

咳こみ、喀血した手のひらには血がにじんでいる。

 

病は密かに確実に進行していた。

 

もはや死からは逃れられない。

 

悟り、絶望、諦め。短い生へのかすかな希望。

 

いくつもの感情が沸き起こり揺れ動く複雑な心のグラデーションを、吉沢亮くんはほぼ瞳の陰影だけで雄弁に物語る。

 

錦織の悲しみは観る者の心に静かに浸み込んで広がり、いつの間にか涙が頬をつたう…。

 

 

 

初めて錦織の勉強部屋である「狭くて暗い空間」と居間も登場した。

 

静謐なその空間にたたずむ錦織を見ていると、笑顔の下に隠れた彼のもう一つの顔が浮かび上がってくる。

 

 

 

自宅に戻り、狭くて暗い空間で暗闇の一点をじっと見つめる錦織。

 

ひたひたと迫る病への怯えや将来に対する不安。

 

長い夜、彼は一人でそれらと対峙しているのかもしれない。

 

そして朝が来ると何事もなかったかのように晴れやかな笑顔でヘブンを迎えに行く…。

 

吉沢くんがまとう錦織の憂いは、本編では描かれていないそんな日常まで見えてくるようだ。

 

 

 

 

 

不治の病に侵され、学問の道でも挫折を味わっていた錦織。

 

それでも明るく真摯にヘブン一家を支えていた彼の心の内を知った今、その存在は忘れがたく深く視聴者の心に刻まれている。

 

教師の仕事と名声、信用、心の支えであったヘブンを失い、結核に侵された錦織は松江でどう過ごしているのだろうか。

 

 

 

少し先になりそうだけれど、吉沢くんの錦織の再登場を心待ちにしている。